〜決着をつけるとき〜

 いよいよ若頭と対面する日となった。俺は緊張のあまり少ししか寝られなかった。気合いを入れて、龍二さんから指定された場所へ向かう。

「いよいよだな。覚悟はできてるか?」

 龍二さんに訊ねられて俺は大きくうなずく。

「よし行くぞ」

 心臓がドクドクと音を立てている。もう後戻りはできない。組長さんの部屋に入ると、1人の怖そうな男の人がテーブルに足を乗せて座っていた。

「何の用だ?ノックもせずに。それにソイツは誰だ?」

「お、俺は成瀬悠真です。龍二さんの知り合いで……」

 男はイライラした様子で龍二さんに言った。

「何でカタギがいんだよ!?おい龍二!!どうなってんだ!?」

「俺たちはアンタに用があって来たんです。ちなみに悠真、この人が若頭の松永だ。お前の母親を轢いた張本人でもある」

 この人が……母さんを。拳をぎゅっと握りしめる。

「おいおい、一体何の話だ?俺には心当たりがないんだが」

「シラを切るつもりですか?アンタがやった証拠もあります」

 そう言って龍二さんは防犯カメラのスクショを彼に叩きつけた。彼はそれを見て鼻で笑いながら言った。

「確かに俺の車に似てるな。だけど、それだけで俺がやったという証拠にならない。俺に濡れ衣を着せる為に、俺の車を使った可能性もあるだろう?」

 どうやっても逃れる気だ……。

「あの……あくまでも自分ではないと言い張る気ですか?」

「だって乗っていたのは俺だって証拠ないだろ?」

 松永はニヤリと笑って勝利を確信している。あるさ、証拠なら。俺は望月さんからもらった写真を突きつけた。それを見た松永の表情が急に曇る。それには、車から降りて母さんを蹴飛ばしている瞬間が写っていた。

「これ、あなたですよね!?これでも言い逃れできますか?」

「何でそんなものが……金で揉み消したハズ」

 龍二さんは懐から拳銃を取り出して松永に向けた。

「油断したな。内密に入手したんだ。アンタの悪事を暴く為に」

「……何でカタギに手を貸すんだ。お前も俺を裏切るのか?!」

 龍二さんは表情一つ変えずに言った。

「これは俺の復讐でもある。成瀬悠一さんを事故死に見せかけて殺したお前にな」

「えっ!?父さんは殺されたんですか?」

「そうだ。コイツが殺した」

 それを聴いてかなり驚いた。母さんからも聴かされていなかったから……。

「龍二さん、どういうことですか?父さんもヤクザだったんですか?」

「悠一さんは仭狼組の元構成員だ。そして俺は彼の部下だった。悠一さんは頭の切れる戦略家で、部下たちに信頼されてた。俺もその1人だ。そんな彼が突然組を抜けるって言い出したんだ……あれは数年前のことだ」


◇◇◇


「悠一さん!!何で組を抜けるんすか!?」

「美千代が元気な男の子を出産してさ。父親がヤクザだと可哀想だろ?だから、足を洗ってカタギになるんだ。慕ってくれるお前には申し訳ないけど……」

 組を抜けるのはショックだけど、俺個人の意見で引き止めるのも申し訳ないな……。

「……分かりました。悠一さんがそう決めたのなら俺は反対しません」

「ありがとな。これから若頭にも伝えてくる」


「そうしたら翌日……悠一さんから連絡がきたんだ。とても苦しそうな声で……」

 急いで現場に向かうと、腹にドスが刺さっていて、苦しそうに呼吸をしている悠一さんがいた。

「悠一さん!!」

 大声で体を揺さぶると、うっすら目が開いた。

「龍二……」

「大丈夫ですか!?すぐに救急車を……」

 スマホを持ったとき手首を掴まれた。

「いいんだ……これは組を……抜けた罰だ。お前に……頼みがある」

「頼み?」

「み……美千代と……息子を……守ってほしい」


 その言葉を最後に彼は息を引き取った。


「それから俺はこの事件を調べることにしたんだが、すでに揉み消されていた。打つ手がなくなった俺は悠一さんが言っていた言葉が気になって組内も調べることにしたんだ。すると、お前が部下たちに話しているのが聞こえてきた」


「そういえば、成瀬悠一って奴いただろ?家族ができたから抜けますって言いやがってさ。あまりにもムカついたから殺してやった。お前らも同じ目に遭いたくなければ、俺に楯突くようなことはすんなよ」


◇◇◇


 俺は龍二さんの話を聴いて我慢できずに、松永の胸ぐらを掴んだ。

「よくも父さんと母さんを……っ!!ぶっ殺してやる!!」

 男を殴りつけようとしたとき、龍二さんに腕を掴まれた。

「待て。コイツは俺がる。お前は手を出すな」

「はい……」

 龍二さんは引き金を引いて頭に銃口を突きつけた。

「一つ訊かせろ。何で美千代さんまで狙った?」

「その日は組の連中と酒を飲んでたんだ。良い気分で帰っていたら、何かに当たった感触がしたんだ。慌てて車から降りたら人だったからよ……うぜえなと思って蹴り飛ばしたら、人が集まってきたから慌てて帰ってきたんだ。そのせいで良い気分が台無しだぜ」

「悠真!!目をつぶってろ!!」

 俺は慌てて目をつぶると同時に銃声が部屋中に響いた。恐る恐る目を開けると龍二さんが冷たい表情で見下ろしていた。

「龍二さん……」

 拳銃を懐にしまいながら彼は言った。

「終わったぞ。俺とお前の復讐が……」


 これで全てが終わったんだ。すると、部屋の外から銃声を聞きつけた連中が、こちらへやってくるのが聞こえてきた。

「悠真逃げるぞ!!」

 俺たちが部屋を出ようとしたとき、銃声が……。すると、龍二さんが胸を押さえている。

「龍二さん!?」

 俺はゆっくりと振り返った。死んだはずの松永が銃を握りしめたまま、歪んだ笑みを浮かべていた。

「……俺がこんなところで終わると思ったか?」

「この死に損ないが……」

 龍二さんはふらつきながら俺の前に立ちはだかり、そして、松永に向けて再び銃を構える。

「今度こそ死ね!!」

 最後の銃声が部屋に響き渡る。奴は今度こそ完全に息を引き取った。龍二さんはその場にゆっくりと崩れ落ちた。背中に受けた銃弾の傷口から、血が滲み出している。

「悠真……」

 龍二さんはかすれた声で、俺の顔を見上げた。

「大丈夫ですか!?今、救急車を……」

 彼は俺の手を掴んで震える声で言った。

「いいんだよ……これで」

 彼の手を握りしめ、声を張り上げた。

「そんなこと言わないで!俺、まだ恩を返してない!だから死なないでください!」

「お前が……生きていることが……恩返しだ……。だから、何があっても……死にたいなんて言うな。俺と悠一さんの分まで生きろ……」

 その言葉を最後に龍二さんの手の力が抜ける。最後に見せた微笑みを残して、彼は静かに目を閉じた。

「成瀬さん!!」

「望月さん?どうして……」

「話は後です!!急いでここを出ましょう!!」

 望月さんの後ろを走って事務所から脱出した。














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復讐の行方 ゆずか @mimie1118

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