〜強力な味方と轢いた犯人〜

「んん……」

 目を覚ますと薄暗い部屋にいた。なんだか頭が少し痛い。動こうとしたら、両手足をロープで縛られた状態で床に転がされていて動けない。それにしても、ここは一体どこだろう……。不安に思っていると、誰かが部屋に入ってきた。

「起きたか?」

 見るからにヤバそうな雰囲気をまとっている男。目の下に切り傷の跡がついてて更に怖い……。

「あなたは誰ですか?」

「俺は仭狼組の佐藤龍二。お前、ウチを襲おうとしたろ?何でそんなことしたか理由を聴かせてもらおうか。それ次第ではこのままお前を殺す」

 俺はその言葉を聴いて彼から目線を逸らした。

「正直死んでもいいです……母さんも助かるか分からないし……」

 俺が震える声でそう言うと、彼は上着の胸元から拳銃を取り出して俺に向けた。

「そうか。なら殺してやるよ」

 部屋中に発砲音が鳴り響いた……ハズだった。

「あれ?」

 弾は見事に俺の横を通り過ぎて床にめり込んでいる。それを見て本当に死んだかと思い、心臓がバクバクいっている。

「何で……?」

 彼を見上げるとニヤリと笑っていた。

「とりあえず理由を聴かせな。それを聴いて判断する」

「分かり……ました」

 俺は全てを話した。彼は俺の話を聴いて、「そうか……」と呟いた。それから、その場であぐらをかいて座った。

「それはウチの組のモンが悪いことした。代わりに謝罪しよう」

 そう言って頭を下げた。なんだか拍子抜けだ。てっきり理由も訊かれずに本当に殺されると思っていたから……。ヤクザだけどみんながみんな、悪い人ばかりじゃないんだな。それから俺の拘束を解いてくれた。

「いいんですか?俺を自由にして……」

「お前の話を聴いていたら、良い奴だということが分かったからな。それで、これからどうすんだ?」

 俺は拳をぎゅっと握りしめながら言った。

「……とりあえず轢いた奴を見つけたいです」

 彼はタバコをくわえて火をつけた。そして煙を吐きながら訊ねる。

「見つけてそれからどうしたい?」

「できれば同じ痛みを味わわせてやりたい……」

「分かった。それなら俺もお前の復讐に協力してやるよ」

 まさかの強力な味方ができて驚いた。でも、俺の中で疑問があった。

「あの……何で協力してくれるんですか?」

 一瞬、彼の表情が曇った。

「お前と一緒だ。俺にもいるからな。復讐したい奴が……」

「ヤクザさん……」

「龍二でいい。お前の名前は?」

「成瀬悠真です」

「成瀬……。ちなみに父親の名前は?」

 何で父さんの名前知りたいんだろう……。とにかく答えなきゃ。

「成瀬悠一ですが……」

 名前を聴いてひどく驚いている。

「……そうか、そういうことなら入院費は俺が払ってやろう」

「ありがとうございます!!」

 ヤクザって怖い人が多いけど、優しい人もいるんだな。しかも、俺のボロボロの服とボサボサの髪を見て服代と散髪代もくれた。嬉しいけど初対面なのにいいのかな。



※※



 翌日の夜、仕事を終えて店を出ると龍二さんから電話がきた。

「今から個室居酒屋へ来い」

「分かりました」

 俺は急いで店へ向かった。店員さんに案内されて部屋へ向かうと、龍二さんとどこか見覚えのある人物がいた。思い出した望月さんだ。何もしてくれない刑事が何で龍二さんといるんだろう……。

「来たか悠真。とりあえずビールでいいか?」

 すでに注文してあったらしく、すぐに届いた。

「悠真、コイツは刑事の望月」

「知っています。何もしてくれない刑事さん」

 彼は俺に頭を下げて謝罪をした。

「あのときは突き放す言い方をして申し訳ございません。今回は龍二さんから協力するよう言われましたので」

「警察を動かせるなんて龍二さん何者なんですか?」

「ウチは悪いことして金を稼いでるからな、警察署に金を送って犯罪を揉み消してもらってんだ。だからコイツらは俺たちに従うしかないのさ」

「なるほど……」

「ところで、頼んだやつ持ってきたか?」

「もちろんです」

 彼はタブレットを取り出して動画を再生した。そこには母さんが車に轢かれる瞬間が……。

「止めろ」

 龍二さんは車をまじまじと見つめている。そして、表情が引き攣っている。

「どうしたんですか?」

 俺が訊ねると「この車は……」と切り出した。

「若頭の車だ。これは偶然なのか……」

 1人で考え込んでいる。その人が犯人……。一体どんな奴なのか気になった。

「龍二さん……その人に会わせてください」

「会ってどうするつもりだ」

「何で母さんを轢いたのか理由が知りたいんです」

「成瀬さん、若頭は気性が荒くとても危険です。それに平気で人殺しもするような人間なんです。辞めた方がいいですよ」

「そんな……」

 俺はダメ元で龍二さんに目線を向けた。すると、「いいじゃねえか」と意外な返事が。

「実は俺が復讐したい相手が若頭なんだ。この機会に決着をつけたい」

「龍二さんが一緒なら大丈夫ですかね。お二人とも気をつけてください」

 次の休みに会いに行くことになった。

「成瀬さん、これもお渡しします。仭狼組がこの事件を揉み消した決定的証拠です。本部に消される前に入手しました」

 写真を何枚か渡された。それに目を通していると、驚くべき事実が明かされた。

「何でこれを俺に?」

「龍二さんが信頼している方ならば、お渡ししてもいいと思ったので」

「ありがとうございます」

 龍二さんはタバコを吸いながら言った。

「その写真と父親の名前は武器になる。ムダにするなよ」

 父さんの名前にどんな秘密があるか分からないけど、これなら力が無くても戦える。俺はもらった写真を鞄に入れた。

「話は以上だ。くれぐれも仭狼組の人間には気をつけろよ。俺たちと一緒にいるところを見られたら消されるかもしれねえから」

「分かりました」


 ビールを飲み干して先に店を出た。男に会いに行くまで俺は周囲を警戒する日々が続いた。そして、1週間後いよいよ対面する日がきた。

 


 




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