生き残り1
「え、私が極楽に仕事のお手伝いをしに行くんですか?」
ある日、閻魔殿の広間で珠美は閻魔に聞き直した。
「ああ。極楽にある薬草園で収穫の手伝いをしてほしい」
話を聞くと、極楽には薬草園があり、そこでは極楽行きの亡者達がボランティアで薬草を育てているらしい。
そして、今薬草の収穫の時期を迎えているのだが、薬草園の規模が大きい為に人手が足りないのだという。
「いつもボランティアをして下さっている夫婦が『今の現世を見学してみようツアー』なるものに参加するらしくてな。それもあって人手が足りないんだ。悪いが珠美、明日
「承知致しました」
頷きながら、珠美は黒髪を短く刈った連翹の姿を思い出していた。彼と一緒に仕事をする機会はあまり無い。
◆ ◆ ◆
そして翌日。珠美と連翹は共に極楽の入口へと歩いて向かっていた。
「珠美様、本日は宜しくお願い致します」
「こちらこそお願い致します、連翹様」
「様はつけなくて良いですよ、珠美様。補佐官という立場は、一般の獄卒より上になるんですから」
「そうでですか……では、『連翹さん』とお呼びしますね」
二人がそんな会話をしていると、真っ赤な門が見えてきた。極楽への入り口だ。そして、門の前には二人の門番。一人は牛の面を被り、もう一人は馬の面を付けている。
「ああ、今日の門番は
連翹が見慣れた様子で呟く。極楽への入り口は、獄卒が交代で門番をしている。
門の前に立つと、牛の仮面を被った獄卒が言う。
「極楽へ御用ですか? お名前とご用件を」
珠美が名前と用件を言い、連翹が通行許可証を馬の仮面を被った獄卒に提示する。
「通行許可証を確認しました。どうぞお通り下さい」
牛の仮面の獄卒が言い、珠美と連翹は門を
歩きながら、小声で連翹が言う。
「あの二人、人間の亡者なのですが、仮面を被ってそれぞれ『牛頭』『馬頭』と名乗っているんですよ」
「そうなんですか……」
牛頭、馬頭とは、昔から言い伝えられている人外の獄卒の名だ。変わった亡者もいるものだなと思いながら珠美は歩みを進めた。
極楽は、珠美の想像とはずいぶん違った場所だった。門のすぐ側には色取り取りの花畑が広がっていたが、歩いていくと商店街やショッピングセンターのような建物が見えてくる。
そして、さらに歩みを進めると、田舎の畑のような風景が広がり、その一か所にビニールハウスのもうなものが見える。
「珠美様はここにいらっしゃるのは初めてでしたよね。あのビニールハウスが、極楽の薬草園です」
「へえ……」
連翹の言葉を聞きながら、珠美はビニールハウスをジッと見つめた。
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