叫喚地獄4

 閻魔殿の広間に戻った珠美は、閻魔に調査の経緯を報告した。閻魔は、悟の生前の記録を読みながら言った。


「……浅間悟が仲良くしていた亡者に話を聞いても分からないか……。私も彼の生前の記録を見直しているが、まだ……ん?」


 閻魔は、急に黙り込んだ。


「どうなさいましたか? 閻魔様」


 側にいた菖蒲が聞くと、閻魔は珠美の方に視線を戻していった。


「珠美。浅間悟と仲良くしていた亡者の名前をもう一度言ってくれ!」

「え? えっと……庄平さんと南田武利さんです」


 珠美の答えを聞くと、閻魔は不敵な笑みを浮かべて言った。


「……手がかりを掴んだかもしれない」


       ◆ ◆ ◆


 翌日、再び悟が閻魔殿を訪れた。閻魔が呼び出したのだ。


「あの、僕に話と言うのはなんでしょう?」


 悟が聞くと、閻魔は早速切り出した。


「浅間悟。お前、叫喚地獄にいる南田武利の孫だったんだな」


 悟は、ピクリと眉を動かした。そして、溜息を吐くと、諦めたように話し始めた。


「……はい、そうです。僕は、南田武利の孫です。僕は……祖父に復讐する為に、祖父に近付いたんです」



 浅間悟は、幼い頃から苦労してきた。祖父である武利が強盗殺人で服役していた為、悟の両親は勤めている会社の出世コースから外れ、収入が少なかった。

 それだけならまだ良かったが、浅間一家は近所の人達から白い目で見られた。小学校や中学校でも虐められた。

 武利が逮捕された時から住まいを変え、苗字も変えていたが、浅間一家が武利の親族だとバレていたのだ。


 悟が十歳の時に武利が亡くなったが、悟はただ悔しかった。武利が病で亡くなる前に、自分の手で武利の命を奪ってやりたかった。


 そして二十五歳の時、悟は交通事故で亡くなった。特に罪もない為極楽行きとなり、たまに地獄にある機械のメンテナンスを頼まれるようになった。


 ある日、機械のメンテナンスの為叫喚地獄を訪れた悟は驚愕する。叫喚地獄に、祖父である武利がいたのだ。

 極楽から追放される事になっても復讐しようと、武利に近付いた悟だが、武利は認知症を患っていた。これでは、復讐する甲斐が無い。


 この気持ちをどうしてくれようと思っていたところに、庄平が話し掛けてきた。悟が深刻そうな顔で武利を見つめていたので気になったとの事だった。

 悟は武利を見つめていた理由を誤魔化し、やがて庄平と仲良くなった。そして、武利を加えて三人で酒を飲むようになった。

 三人で飲む時間は楽しかった。武利への気持ちの整理はつかなかったが、復讐とか関係なく、ずっと三人で酒を飲んでいたかった。

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