謝罪2
大学四年の時、なかなか就職先が決まらなかった珠美は、何とか医療機器メーカーに滑り込む形で就職する事が出来た。
元々文系だった珠美が医療機器メーカーで働くのは大変だった。珠美は医療機器の販売・営業をする部署に配属されたので、医師や看護師に医療機器についての説明をしなければならない。
人手が足りない為、業務時間内はデスクワークと病院の訪問で追われ、退社が深夜になる事もあった。自宅に帰っても医療機器についての勉強に追われ、全く心に余裕が無かった。
ただでさえ社畜気味になっていた珠美だが、珠美が亡くなる半年くらい前から状況が悪化した。
珠美の先輩である女子社員の
珠美は何度も上司の
睡眠時間は削られ、舞香にニヤニヤした顔で書類の束を押し付けられ、珠美の心は限界だった。
そして珠美が亡くなる当日の夜。珠美は薄暗いオフィスで一人残業をしていた。パソコンの画面と睨めっこしていると、不意に後ろから声を掛けられる。
「連城さん、まだ残ってたの?」
振り向くと、そこには同期の平坂孝太郎がいた。
「うん。まだ仕事が終わらなくて……。平坂君こそ、こんな時間にどうしてここにいるの? 橋本さんから飲み会に誘われてたんじゃ……」
「飲み会なら、断ったよ。結構しつこく誘われたけどね……。それより、仕事が終わらないなら手伝おうか?」
ありがたい申し出だが、もし二人きりで残業した事が舞香にバレたら、さらに彼女からの当たりが強くなるかもしれない。
公言はしていないが、恐らく舞香は孝太郎に恋愛感情を抱いている。舞香が大島と関係を持っているのは、ご飯を奢ってくれたりプレゼントもくれたりするからで、愛があるからでは無い気がする。
「あー……気持ちは嬉しいけど、途中までやっちゃったし、最後まで私がやるよ。平坂君も最近忙しいみたいだし、今日は帰ってゆっくりして」
「でも、連城さんの身体が心配だよ……」
孝太郎が心配そうな顔で言うが、珠美はイラついてしまった。そもそも、舞香が珠美に仕事を押し付けるようになったのは、孝太郎が珠美の仕事を手伝ったりするからだ。舞香は珠美に嫉妬したのだろう。
「……ってよ」
「え?」
「いいから、帰ってよ!!」
珠美の怒鳴り声に、孝太郎は一瞬固まったが、寂しそうな笑顔を浮かべると、こう言ってその場を立ち去った。
「……仕事の邪魔してごめんね、連城さん。……何か困った事があったら言って。僕に出来る事なら何でもするから」
オフィスのドアがガチャンと閉まる。再び静かになった室内で、珠美は頭を抱えた。どうして、平坂君に怒鳴ってしまったんだろう。彼は、自分を手伝ってくれようとしただけなのに。あんなに優しい人なのに。
――頭を冷やしてこよう
そして、疲労困憊だった珠美は、虚ろな目で屋上への階段を上がっていった。
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