謝罪1
「珠美の元同僚か……そう言えば、珠美の生前の関係者についてはあまり知らなかったな」
閻魔はそう言うと、興味深げに孝太郎の顔を見つめた。
「平坂君……私の姿が見えるの?」
「うん。僕は……昔から霊感が強いみたいで……まさか、ここで連城さんに会えるなんて……」
珠美は、驚きと共に懐かしい気持ちになった。ブラック企業に勤めていた珠美だが、社内で唯一珠美の仕事を手伝ってくれていたのが孝太郎だった。
「ところで……連城さん、成仏出来てないの? どうしてこんな所に? 連城さんの実家、この辺りだったっけ?」
孝太郎が、首を傾げて珠美に問い掛ける。珠美は、閻魔を紹介しつつ、今自分がしている仕事について説明した。
「へえ……閻魔様って、絵で見るより格好いいんだね。あ、初めまして、閻魔様。平坂幸太郎と申します」
慌てて挨拶する孝太郎を見て、閻魔は手を振った。
「ああ、畏まらなくていい。私も元人間だ。……それより、平坂孝太郎。お前、霊が見えるのなら、一つ聞きたい事がある。この男を見なかったか?」
閻魔は、懐から写真を出して孝太郎に差し出す。その写真には、眼鏡を掛けた仏頂面の関口透が写っていた。
「いや……この方は、見た事ないですね……」
孝太郎は、首を傾げながら答える。
「閻魔様、これからどうなさいますか?」
珠美が聞くと、閻魔は馬を撫でながら言った。
「そうだな……関口透がいる可能性は低いが、彼が生前勤めていた会社にでも行ってみるか……」
すると、その様子を見ていた孝太郎が遠慮がちに言った。
「あの……僕にも何か手伝わせて頂けませんか?」
閻魔は、一瞬目を見開いた後、考え込むような表情をして言った。
「そうだな……せっかくの厚意だ、甘えさせてもらおう。平坂孝太郎。お前、盆踊りの会場に行って、他の亡者に関口透を見なかったか聞いてみてくれないか。生者と話すなんて久しぶりだから、亡者も喜ぶかもしれない」
「分かりました」
珠美達と別れて盆踊りの会場に向かいかけた孝太郎は、振り向いて珠美に言った。
「……連城さん、君が生きている時に助けられなくて、ごめん……」
「ううん……平坂君は、十分私を助けてくれたよ」
珠美はそう言いながら、穏やかな顔で首を振った。
「じゃあ、珠美、関口透が勤めていた会社に行くか」
「はい」
珠美達は、馬に乗って会社に向かった。馬に揺られながら、珠美は生前の事を思い出していた。
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