元閻魔3
それからしばらく雑談をした後、思い出したように紅蘭が言った。
「そう言えば、もう極楽に帰らなければいけない時間だな。……珠美と言ったか。お前、閻魔庁の門までついて来てくれないか」
「え、私ですか!?」
「ああ、頼む」
「はあ……承知致しました」
紅蘭は、くるりと閻魔達の方に向き直ると、笑顔で言った。
「じゃあまたな。菖蒲、閻魔」
閻魔と菖蒲は、部屋を出ていく紅蘭を笑顔で見送った。
閻魔庁の廊下を歩きながら、紅蘭が珠美に問い掛ける。
「珠美、お前はどうやって鬼化を止めた?」
急な質問に戸惑ったが、珠美は正直に答えた。
「私はただ、鬼になりかけていた高城さん……亡者に彼自身が書いた日記を見せただけです。『転生して日記に書いてある夢を叶えましょうよ』といった意味の事も言いましたけど」
「極楽に行けなくなるよといった事は言わなかったのか?」
「はい。今思うとどうなのかと思うのですが、極楽の事なんて考えていませんでした。夢について話す事が、一番彼の心に届くような気がして」
「それを咄嗟に判断したのか……補佐官に選ばれるだけはあるな」
「ありがとうございます……」
紅蘭は、珠美を真っ直ぐに見て言った。
「珠美。現閻魔はあれで繊細な奴なんだ。これからもあいつの事をよろしく頼む」
「は、はい。私はまだまだ未熟者ですが、全力で頑張ります!」
閻魔を支える自信があったわけではないが、珠美は力強く応えた。
◆ ◆ ◆
それからしばらくして、珠美はまた閻魔の私室を訪れた。ノックをして部屋に入ると、閻魔はベッドの端に腰掛けて資料を読み込んでいた。
「ちょっと閻魔様、何してるんですか!? 菖蒲様からも紅蘭様からも休むよう言われたでしょう。その資料から手を放して下さい!」
閻魔は、「
「私は大丈夫だ。それより、亡者が鬼にならないように手を尽くさないと」
そんな閻魔をジッと見た珠美は、ポツリと呟いた。
「……あなたは、何を怖がっているんですか?」
「え?」
閻魔は、不審そうな顔で珠美を見つめた。
「閻魔様は、何かを怖がっているように見えます。何を怖がっていらっしゃるんですか?」
閻魔は目を見開いた後、フッと笑った。
「……本当に、お前には驚かされるな……珠美、これを見ろ」
そう言って、閻魔は自身の白い髪をかき上げた。そして、髪の間から見えているのは――小さな二本の角だった。
「え……その角……!!」
「ああ、私は鬼だ。誰にも言うなよ? 私が鬼だと知っているのはほんの一握りの職員だけだ」
まさか、閻魔が鬼だとは思わなかった。珠美は、驚きながらも平静を装って訪ねた。
「閻魔様、どうして私に鬼だと明かして下さったんですか?」
「お前が聞いたんだろう、何を怖がっているのかと。……聞かせてやろう。私の身にあった事を」
そして、閻魔は自身の過去を語り始めた。
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