元閻魔1
補佐官の仕事にも慣れたある日の事。衆合地獄から上がってきた報告書を渡しに閻魔の執務室を訪れた珠美は、眉根を寄せた。閻魔の机の上には、書類が山積みになっている。
「……閻魔様、仕事のしすぎじゃないですか?」
「何を言ってるんだ。先日の高城玲太みたいな例もある。薬が無くても鬼化を防げるようにしないと。その為には、亡者が何を大事にしているか、何に心を動かされるかを知らないといけない。亡者の生前の記録に目を通すのは当然だろう」
「でも……」
「私の心配はしなくていい。それより、お前はお前の職務を全うしろ」
閻魔は、座って書類に視線を落としたまま言った。
「……承知致しました。でも、私に手伝える事があればおっしゃって下さいね」
「ああ、ありがとう」
そう言って、閻魔は立ち上がる。そして、側にある棚に書類の一部を戻そうとした時、閻魔の身体がぐらりと揺れた。
「……っ!」
「閻魔様!!」
珠美はすぐに閻魔の元に駆け寄った。閻魔は、棚に手を突いたまま苦しそうな表情をしている。
「閻魔様、閻魔様……!」
珠美の声が、執務室に響いた。
◆ ◆ ◆
「過労ですね」
ベッドに横たわっている閻魔を見て、菖蒲がきっぱりと言った。ここは閻魔の私室。広くて全体的に中華風なこの部屋には、今珠美と菖蒲、そして大きなベッドに横たわった閻魔がいる。
「……少しふらついただけだろう。大げさなんだよ」
閻魔が、横たわったまま額に手を当てて言う。
「いいえ。あなたの仮の肉体は丈夫とはいえ、酷使すると壊れます。今日は仕事をせずに横になっていて下さい」
菖蒲に険しい顔で言われ、閻魔は渋々頷いた。
そして珠美と菖蒲が部屋を出ようとした時、部屋のドアがノックされた。
「閻魔様、いらっしゃいますか? すぐにご対応をお願いしたい事がございまして……」
閻魔が「入れ」というと、珠美も見た覚えのある獄卒が姿を現した。以前衆合地獄にいた
「あ……もしかして、閻魔様は今お休み中でしたか? 申し訳ございません……」
ベッドに横たわった閻魔を見て、連翹は申し訳なさそうに言った。
「すぐに対応しなければいけない事とは? 私が代わりに出来る事であれば対応しましょう」
菖蒲が言うと、連翹は菖蒲の方に向き直って説明した。
「実は……極楽から
「何、紅蘭様が!?」
ベッドからガバリと起き上がりそう叫んだのは、菖蒲ではなく閻魔。閻魔は、青ざめた顔で言った。
「菖蒲、連翹、珠美! 絶対私が倒れかけた事を紅蘭様に言うなよ! 無茶して倒れかけたなんてバレたら、殺される……!!」
「もう遅い」
いつの間にか開いていたドアの向こう側から声がする。閻魔が強張った顔でギギギとドアの方を見ると、そこには三十代くらいの女性がいた。ウェーブがかった黒髪を頭の頂点で纏めた、赤い瞳の女性。天女のような衣服も似合っていて、とても美しい。
「こ、紅蘭様……」
閻魔は、そう呟くと、そのまま固まってしまった。
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