親愛と憎悪4

「もう僕が殺された理由が分かったんですか?」


 広間に呼ばれた玲太は、驚いた様子で口を開いた。


 閻魔は、珠美から預かった玲太の日記帳を大きな机に置き、逆に玲太に質問する。


「高城玲太、お前、この日記を他人に見られた事はないか?」


 玲太は、困惑しながらも答えた。


「……僕の知る範囲では見られていません。でも、この日記はいつも持ち歩いているので、誰かが見ようと思えば見る事は出来たかと」

「そうか……高城玲太。小田島隆平がお前を殺害しようとしたのは、彼がお前の研究アイディアを盗用していたからだ」

「……っ……!!」


 玲太が、大きく目を見開いた。


「小田島隆平は、お前に研究を手伝わせておきながら、お前に研究の大事な部分は教えなかったそうだな。それは、お前に盗用した事を知られたくなかったからじゃないのか? 小田島は、お前の日記を見てアイディアを盗んだんだ」

「そ……んな……」


 玲太は、身体を震わせて呟いた。当然だろう。ずっと慕ってきた教授が、自分を殺害したばかりか研究アイディアを盗用したなんて、信じられるはずがない。


「酷なようだが、これを見てみろ」


 閻魔が、浄玻璃鏡の映像を玲太に指し示した。リモコン操作によって映し出されたのは、小田島のパソコンのアップ。そこに打ち込まれていた文字を見て、玲太は目を見開いた。パソコンに書き込まれていたのは、玲太が日記に書いた研究アイディアを応用したものだったのだ。


「……高城玲太、お前本当に、盗用に気付いてなかったのか? 手伝いだけとはいえ、小田島の研究に関わっていたんだろう? もしかしたら、薄々盗用に気付いていたけれど真実を追及しようとしなかったんじゃないのか?」


 玲太は、震える声で答えた。


「……全く気付きませんでした。でも、もしかしたら……無意識の内に、盗用の可能性を考えないようにしていたのかもしれません……」


 閻魔は、日記を眺めながら言葉を続けた。


「小田島がお前を殺害したのは、お前を学会に連れて行く予定があったからだろう。学会で小田島の発表を見れば、お前がアイディアの盗用に気付き騒ぎ出すかもしれない。だから、学会が始まる前に、お前を殺害する必要があった」


 玲太は、ギュッと拳を握り締めた。盗用されたと騒ぐなんてしないのに。例え盗用されたとしても、先生の側にいられればそれで良かったのに。

 玲太が良い成績を取ったら「頑張ったな」と微笑んでくれた先生。実験の手順を間違えて迷惑を掛けたのに「次から気を付ければいいさ」と笑ってくれた先生。

 どうして、先生は僕を信用してくれなかったんだろう。どうして、僕を側に置き続けるという選択をしてくれなかったんだろう。どうして。どうして。どうして。

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