賽の河原4
それから数刻後、武流は皆に見送られて転生しようとしていた。転生する者は船で三途の川を上り、現世との境目まで行き、転生するらしい。
木で出来た船に武流が乗り込むと、皆が武流に声を掛けた。
「武流、元気でな」
「詰め寄ったりしてごめん」
健一も、武流に声を掛けた。
「……武流、来世では幸せになれよ」
「ありがとう……健一君」
武流は、穏やかな笑みを浮かべる。武流が笑ったのを、珠美は初めて見た。
武流は、珠美の方に視線を向けると、お辞儀をして言った。
「珠姉さん、僕の気持ちを考えてくれてありがとう。これからもお元気で」
「……うん、武流君も元気でね」
珠美は、笑顔で応えた。
「じゃあ、行くぞ」
船頭が、船を動かし始めた。武流の姿が見えなくなるまで、皆手を振っていた。
◆ ◆ ◆
「そうか、ボイコットは防げそうか」
閻魔殿の広間で珠美が報告すると、閻魔は笑みを浮かべて言った。
「ご苦労だったな、珠美。こんな任務は初めてだろうに、よく頑張ってくれた」
「……いえ、子供達が自分で決めたんです」
珠美は、穏やかな顔で首を横に振った。
思えば、武流が健一の手を振り払った時、健一も武流の腕の痣に気が付いていたのかもしれない。それで、珠美が土下座した時フォローしてくれたのかも。
本当に、九歳とは思えないくらい思慮深い子だ。
「あの……閻魔様」
「何だ?」
珠美は、おずおずとした様子で言葉を紡いだ。
「もし可能ならなんですけど……子供達の刑期をもっと短くして頂けないでしょうか。彼らだって、好きで親より早く亡くなったわけではないですし……」
閻魔は、視線を宙に向けて考え込みながら答えた。
「そうだな……子供にずっと石を積み上げるよう強いるのも酷か。子供の性格や亡くなった時の状況にもよるが、検討してみよう」
「ありがとうございます」
珠美は、深々と頭を下げた。
閻魔は、机に肘をついて言った。
「お前は本当に優しいな」
「優しくなんかありません。子供達が苦しんでいると自分が苦しくなるから、閻魔様に頼んでいるだけです」
「それが優しいと言っているんだ」
閻魔は、珠美の方を見ると、ぼそりと呟いた。
「……お前になら、任せられるかもしれないな」
「何か言いました?」
「いや、何でもない」
閻魔は、笑みを浮かべて首を振った。
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