地獄へようこそ3

 それから珠美は、菖蒲に案内され賽の河原へ到着した。先程いた三途の川がすぐそこにある。

 辺りを見渡すと、白い着物を着た子供達が何人も河原の石を拾っていた。聞いた事がある。賽の河原とは、親より先に亡くなった子供がその罪を償う為の場所だと。


 菖蒲は、子供達の様子を少し観察してから珠美に言った。


「では、珠美様。ここにある石を使って、芸術作品を作って下さい」

「芸術作品!?」


 他の子供達はただ石を積み上げているだけなのに、何故自分は芸術作品を指示されているのか。


「あなたは珍しく大人で賽の河原行きとなっておりますから、指示も特別です。石を積み上げるだけだと、さすがに簡単過ぎてすぐに飽きますからね」


 多くの大人は、「親より先に亡くなる」以外の罪を犯しているか、すぐ極楽行きが決定する為、珠美のケースは珍しいという。


「あの……賽の河原って、石を積み上げても鬼が壊しに来るって聞いたんですけど、私の芸術作品も……」

「はい、何回も作り直しをさせられます」


 珠美は、顔をひきつらせた。



 それからしばらくして、珠美は黙々と石を河原に並べていた。石を拾う際、川の水面に自分の姿を映してみる。

 つり上がった細い目に黒髪のおかっぱ頭。昔の昼ドラに出て来る悪女のようで、珠美は溜息を吐いた。

 作業を再開すると、石を積み上げていた子供の一人が珠美の元に寄って来る。


「なあ、お姉ちゃん、何作ってんの? 牛?」

「……ペガサスよ」


 河原の石を積んで立体的な芸術作品を作るのは難しそうだったので、珠美は地面に石を並べて絵柄を作る事にした。


「下手くそだなあ」

「いいでしょ、別に」


 そう言って、珠美は子供の方をチラリと見た。小学校中学年くらいの、黒髪を短く刈り上げた男の子だ。この子は、珠美より随分若くして亡くなった事になる。


「……あなた、名前は?」

「健一だよ。加藤健一かとうけんいち

「そう……声を掛けてくれてありがとう。一人でこれを作るのは、寂しかったの」


 珠美は、ニッコリと笑った。健一は、「お、おう」と言って、照れくさそうに顔をそむけた。



 どれくらい時間が経っただろうか。ペガサスもどきを鬼に壊されて珠美が涙目になっていると、菖蒲がやって来た。


「お疲れ様です、珠美様。お手数ですが、閻魔殿までお越し下さい。賽の河原で暫定的な刑を執行するにあたって、手続きがございますので」

「あ、そうなんですか。承知致しました」


 珠美が菖蒲に連れられ閻魔殿に戻ると、書類に目を通していた閻魔が顔を上げた。


「連城珠美、何か亡くなる時の事を思い出したか?」

「いえ、何も……」

「そうか。……これは、暫定的な刑を執行するに当たり、受刑者に渡す通知書だ。受け取ってくれ」


 閻魔が菖蒲に通知書を渡し、菖蒲が珠美に通知書を渡す。

 通知書には、主に次のような事が記載してあった。



・賽の河原での作業時間は、現世に換算して一日八時間。昼休み付き

・暫定的な受刑者は、閻魔庁に隣接する寮に住む事が出来る

・受刑者の無罪が判明した場合には、多額の慰謝料が受刑者に支払われ、受刑者は 速やかに極楽に送られる



「なんだか、どこかの企業に就職するみたいですね。通知書、ありがたく受け取らせて頂きます」


 珠美は、通知書から閻魔に視線を移し、礼を言った。

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