久良充は覚悟を決める

 もういい加減我慢の限界だ。

 毎日毎日、朝から晩まで付き纏われて心安らぐ時間もない。

 こんなの、俺の望んだ学校生活じゃない。


 だから俺は放課後、あいつら三人を屋上に呼び出した。


「もう俺には関わらないでくれ」


 俺の願いなんてこいつらは聞き入れない。それは分かってる。

 でも今日の俺はひと味違う。

 もう日和見は止めたんだ。流されるのは止めたんだ。

 今日はどれだけ反発されようと絶対に引き下がらないという強い意志を固めたのだ。

 さぁどこからでもかかってこい宇宙人共め。

 俺は絶対に諦めないぞ!


 しかし俺の予想と反して三人は――


「分かった。じゃあ久良くんにはもう近付かないようにする」

みつるが嫌がってるのに、無理矢理というのも良くないわよね」

「先輩がそう言うなら……諦めます」


 そう言ってあっさりと引き下がって屋上からいなくなった。


「……え?」


 これで終わり?

 何も言わないのか?


 喜びと不安が入り混じる。

 やけにあっさり過ぎて怖い。怖いけど――


「マジか。マジかマジかマジか。……これで、俺は、自由だあああああああ!」


 そんなのどうでもいっか!

 天秤はあっけなく喜びの感情へと傾いた。


 これで俺の平穏無事な学校生活は約束されたのだ。

 いらっしゃい平穏。さようなら宇宙人。



 これで俺の物語は幕を閉じ……る訳もなく。



 平穏無事な生活が3日過ぎた頃、俺は生徒会長に呼び出されていた。

 屋上で相対するのはとっても美人な3年生の女の先輩。

 長い黒髪とキリッとした目元が特徴的な麗人だ。


「久良君。次の生徒会長に立候補しないかい?」

「へ? 生徒会長……ですか?」

「あぁ、君は成績優秀だし素行も人望も悪くない。最近はあの問題児達とも疎遠らしいじゃないか。誘うなら今だと思ってね」

「あぁ、なるほど……」


 確かにあいつらがこの話を聞いたら生徒会一緒にやるとか言い出してめちゃくちゃに荒らし回るだろうな。

 あの宇宙人共と一緒だったから俺は部活や委員会などには一切参加していなかった。入れば確実に迷惑がかかるからだ。でも今はその心配もしなくていい。


 生徒会長になれば大学への推薦なんかにもプラスに働くだろうし、将来のことを考えて経験しておくのも悪くないかもしれない。

 うん、いいかもな。立候補するだけならタダだ。


「分かりました。それなら俺も生徒会に――」


 その時。


「「「ちょっと待ったああああああああああああ!!!!」」」


 三葉、綾瀬、佐野宮が屋上へと乱入してきた。


「なんでそんな話になってるの!? 私達のいない間に勝手に進めないでよ!」

「そうよ! 今は『私達がいないことでその有難みと寂しさを感じさせてより親密度を上げる作戦』の最中なのよ! 邪魔しないで!」

「先輩へのストーキングを3日も! 3日も我慢したんですよ! なのにこんな仕打ちあんまりです!」


 え、おい待て。なんだその作戦。

 俺は全然普通に日常を謳歌してたんだが。自意識過剰か?

 というかやっぱそういう裏があったのかよ。くそっ、ぬか喜びさせやがって!


 こうなってしまった以上は生徒会長云々の話もパーだ。こいつらと一緒に生徒会に入るなんてできない。迷惑かけたくないのもそうだが、俺の精神が持たない。


「……すみません会長。この話はなかったことに――」

「時に久良君。君は生徒会長が絶大な権力を有していることを知っているかな?」

「え、は? 権力……? なんの話ですか?」


 生徒会長に立候補する話は宇宙人の襲来によって白紙になったはずだ。

 だというのに、一体なんの話をするつもりなんだ。


「この学校は少し特殊でね。生徒の自主性を重んじるとかふざけた理由で生徒会――特に会長の裁量があり得ない程大きい。それこそ校則を自由に変えられる程だ」

「校則を……? え、それやばくないですか?」

「あぁやばい。だから会長は代々自分を律し、私利私欲のために力を振るわない人間が選ばれてきた。まぁ生徒会長の選出は選挙だから、必然的にそういう人間が人望を集めてきたとも言えるが……そんな訳で私が君を誘ったのも生徒会長に相応しいと判断したからだ」


 俺は絶望した。

 別に会長の話にじゃない。正確にはその話を今この場でしたことに対してだ。

 だってここにいるのは、自分の欲望を全開放し私利私欲のためにしか力を振るわない宇宙人共なのだから。


「久良くんと私だけの特別クラスとか……いいかも……」

「充は毎日私に愛を囁かないといけない校則とか……ふふ、うふふふ。最高ね……」

「一日中先輩をストーキングしてもいい……ってことですか……」


 恍惚とした表情を浮かべる三人。

 体中が怖気おぞけ立った。


「待てお前ら。落ち着け。冷静にな――」

「私、生徒会入る。生徒会長にも立候補する!」

「私もやるわ!」

「私もです!」


 あ、終わった。


「だめだよ二人とも。そしたら票数が割れちゃうでしょ。ここは協力しよ? 一人が立候補して、他はサポートに回るの」

「確かにそうね……」

「流石、今作戦の立案者ですね……とってもくればーです!」

「ふふん、そうでしょ? そうでしょ?」


 こうなった以上、こいつらは己が信念を貫き通すだろう。


 止めるには、俺が生徒会長になるしかない。


 あぁくそ、やってやるよ。

 俺の平穏無事な学校生活のためにお前らの好きにはさせない。


「……分かりました。俺も生徒会に入ります。俺が生徒会長になります」


 会長は嬉しそうに微笑んだ。

 まるで肩の荷が降りたかのように、本当に嬉しそうに。


「そう言って貰えて嬉しいよ。それじゃあ後のことは全部任せる。これで久良君に全部押し付けられそうだ」

「……は?」


 そこで俺は気付いた。気付いてしまった。

 わざわざ俺を誘ったのは今生徒会にいる人達がだと――


「久良くん。生徒会でもよろしくね?」

「充。これからもずっと一緒よ?」

「先輩。いつも見てますからね?」


 三人の美少女が、とろんとした目つきで頬を赤らめて俺を見つめる。

 ドキリと心臓が跳ねた。顔が熱い。

 なんで今、そんな甘えた顔をするんだ。


 あぁくそ、やっぱり――


 俺の周りにはやばい女しかいない。

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俺の周りにはやばい女しかいない 八国祐樹 @yakuniyuuki

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