理解ってしまう
森さんは霊が「理解る」そうだ。決して見えも聞こえも臭いもしないが、ただそこにいると理解るのだそうだ。そんな事がよかったと思える事はなかったが、次第に慣れていったと彼女は言う。
「いい加減そういうものだと納得したんですよ、諦める事にしました。生まれ持ってそんなものが分かるのだから仕方ないと思っています」
ただねえ……やはりこういった体質だと困る事もあるんですよ。
そこから彼女がまだ中学生だった頃に話は遡る。
町にある立派な建物……要するに行政のハコ物で、誰がどう見てもそうなのだが、一応稼働しているという言い訳は必要なので、その町の中学生全員を呼んでの観劇会があった。
金をかけて建て、わざわざ高い料金を払って劇団を呼ぶというのは理解出来ないが、偉い人には偉い人の考え方があるのだろう。当時はまだそれほど問題になっていなかったし、大人は立派なものだと思っていた。
友達とくだらないおしゃべりをしながら建物に入ると、早速嫌な感じがした。霊がいる、直感的にそう思った。何がおかしいってここは建てたばかりで建築中さえ事故は起きていないのだ。
なぜここに霊がいるのか理解らない。一体誰がここにいるのだろう。ただ感じるだけの自分にはここがよくない場所だと言う事しか分からなかった。
流石にクラスメイトの前で『ここはヤバいから』とは言えないので黙って「ここ怖くない?」と言ったのだが、返答は芳しいものではなく『何処が?』『今時幽霊とか?』『流行んないって』等々散々な扱いを受けたので渋々引き下がった。
その舞台自体は面白いものだったのだが、どうにも夏だというのにじっとりとした汗が出てくる。早く終わってくれという気持ちだけで最後まで聞いた。
三々五々今日の感想を述べながら帰っていく。建物を出た途端に霊の感覚はあっという間に消えた。建物に憑いてるのかなと思い出来る限り近寄らないようにした。
その日から二三週間ほどクラスメイトが何人も風邪をひいて休んだ。おかしいのだが、幸い死者も後遺症も出なかったので関係無いと思った。
それからしばらくして、携帯でも制限付きだがインターネットに繋がるようになった。なんとなく興味が湧いたのであの建物にどんな謂れがあったのか調べてみた。するとスマホでは見る事が出来ないページが大量にヒットした。『呪い』や『古墳』、『墓場』などの言葉が出てきたので、調査する場所を図書館に移した。
そこで使えるインターネット回線を使って渋い回線で調べ上げた。するとあの土地は過去、昔の人たちのお墓として利用されていた事が解った。ただ、火葬どころか、土葬ならまだいい方で、飢饉や流行病が起きると死体がそのまま捨てられるような場所だった。
その歴史は次第に忘れられて、ただ縁起の悪い土地となった。それを空き地として市が買収したらしい。そしてその結果できたのがあの建物のようだ。
彼女は帰りに神社でお守りを一つもらい、大事に中学を卒業するまで持っていたそうだが、きちんと健康優良児で表彰されたそうだ。
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