墓で遊ぶ
太一さんは子供の頃、酷い悪ガキだった。一応万引きのような事こそしなかったが、マナーの悪い事は山ほどやった。
ある時墓場で遊んでいたそうなのだが、かなり酷い有様だったらしい。墓石に水をかけたり、虫取りのために他所の墓地に侵入したりしたそうだ。その結果、寺で一日絞られる事になった。両親も『お願いします』という有様で、太一さんには手を焼いていたようだ。
そうして坊さんの元に一晩預けられるようになったのだが、夜になると読経をするので分かるところだけでも良いので読むようにと言われた。
もちろん太一さんはお経など読めないので、住職が読んだとおりに続けて読んでいた。門前の小僧習わぬ経を読むとは言うが、門前にすらいないのでお経なんて精々何か『なん妙法蓮華経』とか『南無阿弥陀仏』といっているところしか知らなかったし、お経の違いなどというものも分からない。
本堂でお経を読んでいたのだが、結構な大きさの声でお経を読んでいるはずなのに声が聞こえてきた。
『た……い……ち』
自分の名前を呼んでいる、そう考えると背筋が冷えた。幽霊など信じていないにしてもお寺でそんなものを聞くとゾクリとする。周りを見てみたが、坊さん以外に誰もいない。幽霊なのかと思うと怖くなった。
名前を呼ぶ声が聞こえてきた方向は昼間自分が墓石を遊びに使った方向だ。声は老人の声のようにも聞こえるが、加工されていた地獄の底から響くような声に変声期のようなものを通しているようにも聞こえる。
恐ろしくなったのだが、何が出来るのか考え、坊さんに続いて必死にお経を読んでいった。頼むからいなくなってくれと言う一心だった。
次第にその声は小さくなって墓地の方へと帰っていった。読経が終わって一安心したので、住職にアレはなんだったのか尋ねた。しかし住職の答えは意外なものだった。
「そうか……君にはそう聞こえたのかね」
そう言われてポカンとなった。君にはだって? 住職には聞こえていなかったとでも言うのか?
「分からないかな、ワシには大勢の死者の声が聞こえていたんだ。あの墓で眠っている人たちの声がね。君はその声が聞こえたそうだが、その声をしたのはきっと君がイタズラをした墓地で眠っている方たちだろうな。慣れればあの人たちの冥福を祈る事も出来るんだがね。いいかい、君は彼らに手を出したから引きずられそうになったんだ。だからここで一緒に読経をしてもらったんだ。あの人たちも苦しんでいるのだから滅多な事はするもんじゃないぞ」
そう和尚は太一さんを諭した。あの声は間違いなく幻などではないそうだ。確かに聞こえたし、住職はもっと沢山の声が聞こえていたという。考えるだけでも恐ろしい事だ。
「それから墓地で遊ぶことは二度としませんでした。悪ガキとはいえ限度がありますよ。踏み越えちゃいけないラインを越えちゃっていたんでしょうね。あの頃の私はあまりにも愚かだったのだと思います」
それから態度を改めた太一さんは真っ当な生活をしていき、無事大学まで卒業して普通の企業に就職する事が出来たそうだ。いまでも年に数回は帰省して家の墓をしっかり手入れするのは欠かしていないと言う。
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