遊び続ける

 水村さんは田舎の山村出身で、まだそこに住んでいた頃に奇妙な体験をして、それが今でも続いているらしい。


 彼が住んでいた村では少子高齢化が進んでいたので、結構な頻度で遊ぶ相手がいない事が多かった。一応ゲームもあるのだが、彼の両親は外で遊んでこいと彼を放り出す事が普通にあった。


 友人の都合が合わず、両親に追い出されたときは神社の境内に座って時間がたつのを待っていた。そういった場合は一人でぼんやり過ごしていたが、やはり退屈ではあった。


 何時だっただろうか、本殿の近くに座っていると、『何をしているの?』と声をかけられた。誰だろうと思い顔を上げると少女が隣に座っていた。村の人は大体全員顔見知りだったのでこの少女の事は知らない、だからきっと他所から来た子なのだろうと思った。


 適当に『いろいろあるんだよ』と答えると『今時間あるかな?』と聞いてきた。『山ほどあるね』と答えると、彼女は『あそぼ』と言い出した。この子は誰だろうとは思ったものの、退屈で仕方ないのでこの子に頼るのも悪くないと思い、一緒に遊ぶ事にした。


 テレビゲームがある時代に鬼ごっこやらかくれんぼ、かけっこなどをした。いくら何でももう少し現代的な遊びは無いのかと思ったが、それでも彼女と遊んで気が晴れたのも事実だった。


 彼女は名乗らなかったし、誰かも分からない。しかし一人で退屈に過ごすより、この正体不明の少女と遊んでいる方が楽しかった。夕方に帰宅しようとすると『帰っちゃうの?』と聞かれるのでドキリとした。今思えばアレが初恋だったのかもしれない。


 そうして少女と遊んでいたのだが、ある日家族揃って東京へ引っ越そうという話になった。もちろんそちらの方が便利だし、今のように遊び相手がロクにいないと言う事も無いだろう。ただ、彼女の事だけが心残りだった。


 小学校のみんなに別れを告げ、後日お別れの会を開いてくれると決まり、その日、家に帰る事になったのだが、どうにもあの少女の事が忘れられず、気が付くと神社の境内で座っていた。


「どうしたの?」


 これほど望んだ声があっただろうか? いつの間にか少女は隣に座っていた。いつも通り『あそぼ』と言われ泣きそうになったのだが、もう遊ぶ事も無いんだろうなと思い、コクリと頷いた。


 その日何をして遊んだかは覚えていない。ただ、面白かったのは事実で何をしたかは重要ではない。夕焼けが見えてきた頃家に帰ろうとすると、『またね』と彼女が言うので『ゴメン、もうここには来ないんだ』と言った。彼女は悲しんでくれるだろうかと思ったのだが、意外な言葉が返ってきた。


「だいじょうぶ、ずっと一緒」


 そう返して彼女はふっと消えた。なんとなくこの世のものではないんだろうなと思っていたのであっさり消えた事にも妙に納得した。


 そしてそれから数日後に引っ越す日が来た。クラスの子たちはそれなりに来てくれたが、彼女は来ていなかった。そう言えば神社の外に出た事がなかったなと思い、そういうことなのだろうと納得した。


 そして東京に引っ越してきたのだが、彼は今でも夢を見るらしい。


 その夢の中では自分が子供に戻っており、あの少女が出てくるのだ。そして一緒に懐かしい遊びをする。それから目が覚めて、あの子が言っていた「ずっと一緒」という言葉を噛みしめる事になる。


「今でもあの子は夢に見るんですよ、いい年だっていうのに夢の中ではまだ子供なんですよね。彼女は一体なんなんでしょうか?」


 彼はそう言って話を締めた。この世のものではないのだろうが、神社の精霊か何かだろうと思ってはいるそうだ。ただ、彼女が出てくる度にあそこに帰りたくなるので週に何度も夢を見る度、起きたときに罪悪感を覚えるそうだ。

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