情くらいある

 金本さんが今悩んでいる事だそうだ。今、ストーカーらしきものに悩まされているそうだが、私に話を持ち込んだ時点で当然警察がどうにかできるような事ではないらしい。


 その根本的な始まりは高校のはじめ、彼は早々に告白をされた。まだ入ったばかりで空気も牧歌的なものだったので、そういった青春がそこかしこで起きたらしい。金本さんは中学の時付き合っていた女子がいたそうだが、面倒な子だったらしく、高校に入ってまで面倒事を抱えたくないという理由ですげなく断った。


 その時のことはあっさりと終わった話なのだが、問題はすぐ起きた。告白事件からその子は学校に通わなくなった。中学までの義務教育と違い、高校では登校を促す寄せ書きなどしない、ただ単に受験のライバルが一人落ちただけの話だった。


 彼はそれを一々気に病まなかったし、大学に入ってしまえば地元から離れるのだから関係無い話でしかなかった。そうして無事受験をして合格通知を勝ち取った。関東某所に家を出て一人暮らしを始めた。


 気ままな一人暮らしであり、彼曰く『あまり高望みはしませんでしたから』という言葉の通り、学業も順調に進み、合間合間にバイトをするくらいの余裕はあった。


 当然やってくる就活で無難な企業に内定をもらって後は消化試合となったところで地元の友人から連絡が入った。『就活終わったか? 暇してる奴らで集まろうって思ってるんだけど暇か?』彼は『ああ、いいぞ。場所は○○か?』そこは懐かしいみんなが集まってバカ騒ぎをしていたところだ。高校で友人たちと集まるとしたらほとんどそこだった。


『そうそう、分かってんな、察しがいいじゃん』


 そうして簡単に規制して就職前の一つのバカ騒ぎをする事になった。電車を乗り継いでやって来たその店は相も変わらず若者が集まっているのだろう、近隣の高校の自転車が駐輪場に停めてあった。


 聞いていたところに行くと見慣れた顔が集まっていた。彼もそれに倣って酒を早速飲んだ。こうして気分よく飲めるのはしばらくないかもな、そんな事を考えながら見ていると、そう言えば告白してきたあの女もいないなと気が付いた。高校時代とは変わった友人たちだがそれでも見分けられた。


「なあ、お前に告白してきた子がいたじゃん?」


 友人のYからそんな話をされた。こちらとしてはもはや苦々しい思い出だ。思い出したくなかったが『いたなあ』と答えた。


「アイツまだ引きこもってるらしいぜ、実家が太いって羨ましいよなあ……」


 その言葉を聞いてどこかホッとした。もしも死なれていたりしたら気分が悪い。生きているだけでも十分だった。


 しかしそれが悩みに変わるのはすぐだった。その日、電車で都内に帰ろうとしたとき、乗りかかった電車から高校生が降りてきた。こんな時間に? そう思ってつい目を遣るとそれは彼が振った女子生徒だった。


 それからはあっという間だった。彼女とは全く関係無いところに住んでいるはずなのにそこかしこであの女の影を見るようになった。何より高校の時のままの顔をしていて、制服も全く替わっていないのが怖くて仕方ない。しかし彼も振った彼女の幽霊が出てきますと警察に言うほど臆病ではなかった。


 幸い他の人には見えていないらしく、女子高生が憑き纏っているなどという噂は立たなかった。


「そんなワケなんですけど、どこか除霊をしてくれる場所を知りませんかね?」


 そう言われても困るのだが、私は霊験あらたかな神社を一つ紹介しておいた。邪推だが、彼が彼女の生霊を見るのは未だに罪悪感を感じているからではないだろうか? それなら大きくて立派な神社が安心感を与えてくれるのではないかという判断だった。


 今のところそれ以降の彼の続報は聞かないが、私としては便りがないのはよい便りだと思いたいものである。

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