友人の住んでいるところ

 北川さんが子供の頃不思議な友人がいた。当時はイマジナリーフレンドの類いだと両親が言っていたが、そうではないのではないかと思うそうだ。


 彼によると、初めて出会ったのは夏の暑い夜だった。蒸し暑いものだから外で少し他の子と遊んだら仏間で寝るようにしていた。そんな体力が尽きているとき、寝ぼけていると子供が現れるのだそうだ。


 その子とはトランプをしたり、ゲームをしたり、お菓子を食べたりと普通に遊んでいた。その子が幽霊でないと思ったのは、遊んだ跡がしっかり残っているし、食べ物を一緒に食べると食べかすが残っているからだ。こんなにはっきりとした幽霊がいるはずは無いと思っていた。


 両親ともに仏間で遊んでいる事に問題は無いようだったが、どうして気軽に許されたのかは分からない。


 ただ、その子と話をした記憶は無いらしい。確かにその子は居たと言うが、じゃあ何を話していたのかと言われれば会話内容もどんな声をしていたかも思い出せないそうだ。


 この子は優しかったのだが、どうしてもいやな思い出が残っているという。ある日、その子が仏間を出て行くとき、ああ、帰るんだなと思い、そこでイタズラ心が湧いた。


 彼はいつも一人で帰っているが、何処に帰っているのか知らない。いつも寝ぼけているので何処に消えるのか分かっていなかった。仏壇に吸いこまれても驚かないなと思いながら、彼と遊んだ跡寝たふりをしつつ本当に寝てしまわないよう耐えながら目を閉じた。


 その子は仏間で遊んでいるのだから仏壇に消えると思っていたが、彼は薄目を開けていると襖を開けるのが見えた。ああ、本当にいる子だったんだな。


 そう思って仏間から彼を見送ろうとついて行った。襖を開けてついていくと、ドンドン家の中を進んでいく。しかし玄関の方へは行っていないのだ。じゃあもしかしてこの奇妙な友人は家の中に住んでいるのか?


 そう奇妙に思いながらコソコソしていると、彼は台所に入ってその真ん中でフワッと消えた。何が起きたのか分からなかった。ただ、あの子がこの世のものではない事ははっきり分かった。


「何してんの?」


 そう立ち尽くしていた彼に母親が声をかけてきた。彼のイマジナリーフレンドの事は知っており、「はいはい、早く友達を作りなさいよ」と言う程度でしかなかったのだが、彼がその友達が台所で消えたというと、途端に恐ろしい表情になり、『アンタ本気で言ってんの? こんなところに人が住めるわけ無いでしょ! ふざけてないで宿題でもやりなさい!』


 普段は彼の事を話しても文句一つ言わず流してくれる母親が、何故そんなに怒ったのかは分からなかったが、それでもこの話題を持ち出すと起こられるんだなとは思った。


 それ以後、その友人は仏間にいても出てこなくなった。


 さて、普通はここまでの話であるのだが、北川さんには未だ心に残っている事があるそうだ。


「ガキだった頃は気が付かなかったんですけどね……アイツが消えたところなんですけど、床下収納があるんですよ。鍵つきだから勝手に開けられないんですけどね……一体何が入っていたのやら、そのことを考えると空恐ろしい気がしてならないんです」


 なお、彼は床下収納に気が付いてからも開けようと思った事は無いらしい。開けてしまうとあの友人の正体が曝かれてしまうような気がするからだそうだ。

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