同僚からのプレゼント
日村さんはなんとも後味の悪い経験をしたそうだ。ただ、確証があるわけでは無いので詳細は伏せて欲しいと言ってから話し始めた。
その日は営業成績の発表日、日村さんは営業成績トップで上司に褒められていた。それから自席に戻ると、同僚の一人が近づいてきた。最近頭角を現してきた……Bとしておこう。
「日村さん、今月もトップはとられちゃいましたね」
「ははは……俺の運が良かっただけだよ」
「いやあ、日村さんのおかげで助かってますよ。ほら、課のみんながすごいすごいって言ってるんでみんなで買った贈り物があるんですよ」
別に会社のために働いているわけで、たまたま成績がよかっただけなのだから贈り物などもらう事はないはずだが、Bは『もう買っちゃったんで』と言ってテーブルの上に一つの紙袋を置いていった。この辺に住んでいるなら誰でも知っている百貨店のものだ。あそこで買ってもらうほど褒められる事をした覚えは無いが、人の好意を無碍にもできないので『じゃあありがとう』と言ってその袋を持って帰る事にした。どのみち買ってもらったものを返品させるよりよほどいい。
そうしてその日は気分よく家に帰った。ただ、営業にでなかったので、いつも馴染みにしている飲み屋に寄っていない。ストレス発散も兼ねて毎日のように酒を飲んでいたので、たまに飲まないとこんなに眠れないのかと思って驚いた。
ベッドに入っても妙に時計の細かい音が気に障って眠れないので起き出して部屋の片付けをする事にした。使っていないものを一通り集めてゴミに出す。我ながら仕事人間だったなと驚くほどのゴミが出た。それをまとめて燃えるゴミの袋に入れてゴミ置き場に持っていった。ゴミは当日朝というルールがあるが、もうすぐ空が白んでくる頃だ。彼方の方ではそろそろ星が見えなくなってきている。
これなら朝だと強弁してもいいだろう。そう思ってゴミ置き場にゴミを全て捨てた。そうして家に帰るとスッキリして細かい事は気にならなくなった。たまには掃除も必要なんだなと思いつつ、コーヒーを淹れて飲んだ。しかし流石に徹夜は難しかったのか仮眠をとってから目が覚めると、ちょうど出社にいい時間だった。一通り着替えたのだが、早速ネクタイピンを使おうとして、ネクタイピンだけがあるのに気がついた。
贈答品の包装とは言え粗末に扱うのは申し訳ないが、今更ゴミ置き場に間違って捨てた小物の包装を探すのも大変なので、黙っていれば分からないだろうと思い出社しようとした。家を出るとゴミ置き場に警察が来ているのが見えた。警察の人も日村さんを見るなり近寄ってきた。
「ここのゴミ捨て場で早朝に放火事件があったのですけど何か情報がありませんか?」
そう尋ねられてもその時間は寝ていた。だから何も知らないと言ってそのまま出社した。その日会社に着くと、Bが目を丸くしてこちらに寄ってきた。
「日村さん……ネクタイピン似合ってますよ」
そう言いながら普段は目を逸らさず会話するBが妙にピンに視線を遣りながらそう言ってくる。あまり考えたくない想像が浮かんだが、その後の配置転換でBは営業から離れ、別の部署に異動したのでもう何も知らないそうだ。ただ、後日同僚にそれとなくプレゼントの話を臭わせたが、皆知らない様子だったので黙っておいた。
「全部思い過ごしだといいんですけどねえ……ほら、繋がっちゃうでしょ?」
彼は警察にどうこうするつもりは無いらしいが、贈答品が少し怖くなったそうだ。
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