木か人か

 大山さんは山村出身なのだが、訳あって都会に出てくる事を決めたそうだ。


「田舎だから悪いってワケじゃないんですよ、化け物がいるところに住めなかったってだけでね」


 そうして彼が見たおぞましい物の事を話してくれた。


 あれはまだ高校生だった頃かな、もし村に高校がなかったら高校は寮にでも入って村に戻ってたかもなあ……まあとにかく村に高校があったわけで、高校生になっても村から出ずに生活出来てしまったんだよな。


 でさ、高校生だろ? スマホで動画を見てたらあっという間に時間が溶けていくんだ。中学までは夜更かしで大目玉を食らってたんだが、高校にもなると親も多少は緩くなるんだなあ……ソレがもう少し違っていればって思う事もあるよ。


 アレは夏の日の深夜の話だ、田舎なんで暗いっちゃ暗いんだが、街灯くらいはあるんだよ。税金使って建ててんだよな。まあそれはいいや。とにかく深夜にスマホを見てたんだよ。そんな時にガサガサ音がしてさ、どうも森の方から音がしてるみたいなんだよ。


 森は確かにあるんだが、ソレでも一応人の住む集落だからな、アスファルトの道はあるんだよ。だから森から入ってくる人はいないはずなんだ。そこで興味が湧いて窓から森の方を見たんだよ。そしたらさ……


 森の方に人影が見えたんだよ。いくら田舎だからってそりゃあ人くらい来るさ、でも森から来るヤツがいるのかと思ってその人影を見ていると道路に出てきたんだ。それは人じゃあなかった。人ではないんだがなあ……


 なんて言うかさ、木なんだよ。いや、植物なのかも知れねーな。ほら、細くて蔦なのか木なのか微妙な植物ってあるだろ? それが絡み合って人のような形をしてたんだ。街灯の下に来たときにはっきり見ちゃってさ、目が離せなくなったんだ。


 ソイツは足らしき場所を動かすでもなく、人の形をしたまま……なんていうかな? ローラースケートで移動してるみたいに姿勢を変えずに進んでいくんだ。こうなると興味が湧いてさ、何処に行くのか見てたんだよ。


 とは言っても街頭から離れると見えづらくなるんだが、その何かは街灯のある道路に沿って進むんだよ。あの村で街灯は全部の道路にあったわけじゃない。重要なところだけにあったんだ。


 つまりソイツの目的はどこか村の重要な場所になるだろ? そのまま見てると村で唯一の診療所に行ったんだ。夜間診療なんて救急車任せだから診療所の明かりは消えてたんだが、その化け物は裏に回ってピタリと止まったんだ。


 そのとき、思い出したくもないんだがその化け物は身につけた葉っぱの色を濃くして、体も少し太くなったんだ。しばらくそうした後またあの奇妙な動きで森の方へ帰っていったんだ。


 まあアンタも予想が付いたんじゃないかと思うが、翌日に診療所に運ばれたヤツが死んじまってな。誰がどう見ても急病だったんだが、俺だけはアレを見てるから違うと思ってるんだ。患者はアレに食われたんじゃないかって思ってる。


 そんなもん見ちまったからさあ……村にはいられないなって思って高校を出てすぐ、こうして逃げるように出てきたんだよ。多分親が死んでも帰らねーんだろな……いや、両親との仲が悪いわけじゃないんだ。親があの化け物の養分にされるのを見たくねーんだよな。だからもう俺は故郷に帰れないんだよなあ。


 ああ、勘違いすんなよ、バケモンが嫌いなだけで村は悪いところじゃなかったぜ。ただなあ……


 彼は結局決意が出来ていない様子だったが、私はなんとなく彼が村に帰る事はないのだろうと思った。

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