残っていた足跡

 早川さんがまだ小学生だった頃の話になる。彼は某雪国出身で、冬になるとそれなりの雪が降る地域に住んでいた。


 それはまだ小学校低学年の頃のこと、朝に玄関を開けるとその年の初雪が積もっていた。雪が降らない地域の子供ならテンションが上がるのかもしれないが、彼にとっては見慣れた風景で、また通学が面倒くさくなるななどと思っていた。


 そんな時、ふと玄関の先を見ると足跡が門扉から玄関まで続いていた。奇妙に思ったが、そういえば新聞は郵便受けにあるのでそれを両親のどちらかが取りにいったのだろうと納得して寒くなる前に家に入った。


 そこで両親が起き出してきたのか、眠そうにしながら『おはよう』と話しかけてきた。その母親に『今起きたの?』と尋ねると『当たり前でしょ』と言われたので、じゃああの足跡は父親のものなのかと思い『お父さんは』と言うと『まだ寝てるよ、何かあった?』と返ってきたので、正直にさっき玄関先で見たものを話した。


 すると母親が父親の寝ている寝室に走っていき、何か両親の大声が聞こえてきた。何か大変なことが起きているのは理解したが、なにがどう大変なのかは分からなかった。


 それからどこかへ電話をかけていた様子で、自分は仏間に入って待っていろと言われ、得に何も無い仏間で退屈をしていた。『学校は休むように連絡を入れてるから』と言うので、休みが取れてラッキーくらいに思いながら仏間でゴロゴロしていると、寺の坊さんがやって来た。


「この子ですかな?」


 その言葉に両親が頷いている。何がそんなに大変なのかと思いながら話を聞いていると、途端に坊さんが自分を仏壇に向かせて、背中を何度も張られ、その後いくらか頷いてお経を延々と唱えていた。


 なんでこんな目に遭うのかと思いながら耐えていると、坊さんが『もういいでしょう』と言い、ようやくその儀式が終わった。なんでこんな大げさなことになったのかと思い、その日の夕食で父親に聞いてみた。


「ああ、アレは○○○○と言う……まあ土着の怪物みたいなもんだ。アレの来た家は子供が連れ去られるんだ。ウチに子供はお前だけだから坊さんにお前の魔払いを頼んだんだよ。しつこいときには読経じゃどうしようもないことがあるらしいが、上手く言ったようでホッとしたよ」


 そんな話を聞かされた。怖いなとか、そういった感情よりも、この地域にはそんなものが未だにいるのかと妙に感心した。


 それからふと思いだしたのだが、朝に足跡を見たときに両親が門扉まで行ったのだろうと思ったが、よく考えると足跡はウチに入ってくる方向しか無かった。両親どちらかが門扉まで行ったなら往復の二つ足跡が出来ているはずだ。そう考えると流石に少し怖くなった。


 そしてそんな化け物に自分が狙われていたと思うと怖さしか無い。大学に進学するときに地元を離れて以来、結婚しようが両親を呼んだことはあるが、こちらが実家に帰ったことはない。その事について両親ともに文句の一つも言わないので思うところがあるのだろうと察してしまうのだそうだ。

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