いかにもな不良
伊能さんが少し前、まだ高校生だった頃の話だ。彼が当たり前のようにいつものホームルームを聞いていると、教師が突然『最近素行不良者が多いので余計な事をせずに帰るように』と言った。このあたりの治安に詳しいわけではないが、そんないかにもガラが悪い生徒なんて他校を見てもそうそういなかったのでわざわざ注意するような事かと疑問だったそうだ。
しかしその帰り道、先生がわざわざ忠告してくれていた事を思い知る事になった。通学するときに最短ルートを通ると小さな公園の前を通るのだが、その公園に学ランを着たいかにもガラが悪いという雰囲気を丸出しにしている生徒が何人か居た。
彼はそっと目を逸らし、そんな連中居なかったとばかりに無視を決め込む事にしてコソコソと隣の道の隅を通り抜けようとした。悪い事は起きるもので、『おい』と野太い声がかけられた。知らない振りをしようかと思ったが、無視すると実力行使に出られかねないので『なんでしょう?』と出来るだけ相手を刺激しないように聞いた。
「兄ちゃん、ワシら電話がかけたいんやけど小銭がないんや、十円か百円か持ってないか?」
少し考えた末、財布の中から小銭を出すと財布ごと巻き上げられる可能性がある。そっと制服のポケットに手を入れ、小銭入れを開けてひっくり返す。まとまったお金を見せないように百円玉を三人相手だったので三枚取り出した。すると不良たちは『おう、助かったわ』と言って離れていった。
三百円で安全が確保されるなら安いものだと速やかにその場を離れた。高校生にとっての三百円が端金とは言わないが、安全を買ったと思えば安いものだ。駆け足で公園を離れて逃げ去ったところでふと気が付いた。
「この辺……学ランの高校とか無いよな?」
小学生は学ランのような制服だが、あんな小学生がいてたまるか。となると中学生か? いや、中学もこの辺の学校はブレザーだ。
何が何だか分からない。一昔前の少年マンガから飛び出してきたような不良そのまんまの連中に三百円を巻き上げられた?
そこでふと気が付いたのだが、あの三人組はいかにも高校生くらいであろう年格好をしていたが、電話代を強請ってきた。電話代? 十円か百円と言っていたので公衆電話だろう。今時スマホどころか携帯すら持っていないのか? 何もかもがおかしいような気がする。
そしてそもそも公衆電話はあの公園に無い。三百円を恐喝するのはあまりにも割に合わない。下手をすれば警察のお世話になりそうな行為なのに奪ったのは三百円だ。そんなリスクを冒すようなものだろうか?
そしてふと昔の記憶が思い出された。祖母に連れられて公園に来て遊んでいた頃、まだ就学すらしていない時期のこと。あの公園で砂遊びをしているときに緑の電話機が一角にあったような気がした。当時は気にしなかったが、あの時はまだ撤去される前で公衆電話が置かれていたような気がする。
しかしそれではあの不良たちは過去から来たと言う事になるのだろうか? それに三百円が手に入ったところで電話が無いのにどうやって連絡をするのだろうか? 考えてもキリがないような気がしたのでそのまま自宅に帰り、それから高校を卒業するまでその公演の近くに立ち寄る事は無かったそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます