理論上は可能です

 飯山さんはSNSで遊んでいた。そんな時に体験した奇妙なできごとだ。


「理論的にあり得ないわけじゃないんですがね……」


 そう前置きをしてから彼は話を始めた。


 始まりは……そうですね、田舎の実家に祖母がいるんですけどね、携帯電話が壊れたからと一人でセニアカーに乗ってショップに行ったそうなんです。まあ良くある話ではあるんですけど、勧められるままにスマホに機種変更をしてきたらしいんですよ。


 何しろ祖父母の二人だけで暮らしてますからね、コミュニケーションが取れなくなると困るので散々文句を言っていたましたが、祖父の方はまだ携帯電話だったのでなんとか連絡が付いたんです。


 結局、固定電話を使えば暫くはなんとかなるので、次にそこまで行ったときに機種を携帯電話に戻してこようと話が付いた。


 親族はグダグダ文句を言っていたが、飯山さんはそれほど気にしなかったらしい。いい年の大人が自分の意志で契約したんならいいんじゃないかと思っていたという。


 その晩、スマホを充電しながら寝たのだが、ふと夜中に目が覚めた。トイレで用を足して戻ってくるとスマホがピコンと通知音を鳴らした。こんな時間に……とは思いつつ一応確認だけしておこうとした。


 するとメッセンジャーのフレンドに祖母の実名が登録されていて、そこから届いたメッセージの通知音のようだった。


 そこには『元気? たまには顔を見せなさい』と書かれていた。時間のことはさておいて、祖母がこんなにすぐスマホを使いこなせるのだろうか? その事は疑問だったが、『分かった』とだけ送り返して寝た。


 それから毎晩祖母からメッセージが届いて、彼の身を心配しているような内容と、たまには顔を見せろと小言のようなメッセージが送られ続けた。


 よく毎日マメに送ってこれるものだと感心して夜寝る前にメッセージを確認するクセが付いた。


 とある夜のこと、家の前からエンジン音がしたので目が覚めて、窓から外を見ると両親が車を出そうとしていた。『こんな時間に?』と思いながら、何かあったのかと玄関を出ると、渋い顔をした両親が車に乗り込むところだった。


『何かあった?』


 そう訊ねると、祖父から祖母が家に居ないと連絡があったそうだ。多少認知症を患っていたので、いつかはそういうことになるのでは無いかと心配していたらしい。


 その夜は眠れないまま机に向かってスマホを見ながら『何処に居るの?』とダメ元で祖母にメッセージを送った。すると返信があり、『実家に帰るの、あなたも来る?』と帰ってきた。祖母の実家は今の家から隣の市にあるのだが、セニアカーが残っていたと聞いていたので徒歩で歩いているのだろうか?


 父が運転していたので母のスマホにそのメッセージの内容を伝えると、『おばあちゃんがそんなもの遅れるはず無いでしょ』と返信が来た。仕方ないのでスクリーンショットを送ると多少は気になったのか実家から祖母の実家までの道をじっくり見ながら車を走らせたらしい。


 それから少しして『見つかったわ』とだけ返ってきて、無事その一件は解決となった。ただ、祖母は随分と認知症が進んでいたようで、そのときにはスマホを持ってこそいたが、とても文字を入力できるような状態では無かったらしい。


 それから何回か祖母のところを訪れた後、眠るように息を引き取ったのだが、あの時に誰がどうやってメッセージを送ってきたのかは謎だそうだ。


 飯山さんは祖母が僅かに残っていた意識で送ってきたのだと思っているが、家族からあのメッセージを送った人が誰かいたとすると事件になるから黙っていろと言われ、その件は以後触れられないことになった。ただ、スマホを機種変更しても祖母の形見のようなものとしてメッセージだけはずっと引き継いでいるそうだ。

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