根も葉もない話
牧野さんが子供の頃通っていた学校の話だ。話をしてくれた彼はもう結構な年なのでそれなりに昔のことになる。その頃はまだまだ学校に怪談がつきものだった頃の話。
彼の通っている中学には『学校を建てるときに事故で死んだ人の幽霊が出てくる』という噂が流れていた。その後になって調べたそうだが、中学の歴史を漁っていてもそんな事実は全く出てこなかった、おそらくはガセであろうとのことだ。
しかし中学生レベルなのでそんな出所の分からない話でも面白そうなら噂として広がっていった。教師が余計に噂を流さないようにと言ってもほぼ効果は無かった。
そんな学校にもう一つの怪談のネタがある。開かずの教室があってそこに幽霊が出るという物だ。そんな噂が立っていたが、事実はベビーブーム時代に合わせて学校を作ったので少子化に伴っていくつかの教室を閉鎖したと言うだけのことだ。
そんな使われなくなった教室だが、ずっと放置というわけにもいかない。空き教室のいくつかは特定の教科で使う教室に変えられ、その他の教室も、なんとか使い道を見つけていた。しかし、一つだけどうしても使い道を思いつかなかったのだろう教室があった。
そこは普段から鍵をかけ、カーテンを閉められていたので生徒たちは好き好きに噂を立てた。しかし大掃除の時にその教室を掃除することになっており、そこを担当した生徒から中に何か無かったかと聞いたところ『普通の教室だった』と聞き落胆してから二年生以降にその教室の階段は否定されていった。
彼がその教室の掃除を頼まれた事があるというのだが、そのときは別に特別なことは無かった、しかし何故か教室を綺麗にしておいてくれと頼まれた。頼まれた理由はたまたま学校に最後まで残っていたからだった。理不尽だなと思いつつバケツとモップを持って教室に入った。
中に机も椅子も無く、がらんとした教室はいかにも誰も使っていないという雰囲気を出していた。こんなところを今掃除する理由があるのかとは疑問に思った。しかし大人の言うことなのだから大層ご立派な理由があるのだろうと掃除に取りかかった。窓を拭いて床を磨く。
この教室は誰も使っていないはずなのにどうしてだろうかとは思うのだが、教室の隅の方に赤い染みが出来ていた。目立つので掃除しておこうと水をかけモップでゴシゴシとそのシミを擦った。はじめは赤一色だった丸いシミは少しずつ擦れて薄れたのだが、完全には落ちない。荒っぽく力を入れてゴシゴシ擦って消えたか確認したところで氷を背中に入れられたような思いをした。
薄れたシミは人の顔のような形になっていた。一部だけ擦れて消え、そのような模様になったのだろうがどうしてそんな器用に顔の形に消えたのか分からない。気味が悪いなと思いつつもう少し擦れば完全に消えるかと思いゴシゴシと擦った。
『いでえ……いでえよう……』
そんな声が聞こえてきた。間違いなくシミから聞こえた声だ。怖くなって掃除道具を全て持って職員室に大急ぎで逃げ帰った。そして掃除を頼んだ先生にそれを話すと、苦々しい顔をした。
「まだ居やがったのか……もういいぞ、あとは先生がやっとく。今日のことは他のやつに話すなよ」
そう言って先生は掃除用具入れからスプレーを取り出してバケツとモップを持ち職員室を出て行った。
そこまでしかはっきりとしたことは知らないのだが、あの教室には後日坊さんが入っていったと噂するものが出てきたそうだ。
「とまあ真実は何も分からないんですけどね、ただ、あの学校に何かあったのは嘘じゃないと思うんですよね。ほとんど全部の噂はデタラメじゃ無いかと思うんですけど、多分何かの形で死人は出ているんじゃないでしょうか」
それが彼の話の全てだ。何も証拠は無いが、何かあったことだけは賭けてもいいから真実だと思っているらしい。
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