ゴシップ配信

 向島さんは配信者だ。所謂Vであり、普段から他の配信者などのゴシップを流す配信をしていた。当然そんなことをしていると恨みを買うわけだが、金のためと割り切って配信をしていたらしい。


 向島さんに『そんな活動をしているとメンタルをやられませんか?』と聞いてみたのだが、『当時は気にしていなかったですし、恨みを買って配信を見に来るアンチも再生時間くらいに思ってましたね』としたたかな話をされた。


 彼は毎日のように界隈の醜聞や色恋事情などを曝露して散々恨みを買っていたが、Vということで自身が恨まれることはないので気にすることはなく配信を続けていた。


 3Dモデルを作ってくれた人が苦言を呈するような配信だったが、事前に契約をしっかりかわしていたので気にすることなく配信を続けた。彼によると『モデルが使えなくなったら変えればいいだけ』という身も蓋もない態度で配信を続けていた。


 ある日、大きなゴシップがたれ込まれた。界隈の有名人が炎上しそうだという情報なので、鮮度が命と信じている彼は迷うこと無く台本を書いて配信を開始した。まだ平日の昼間だったが、夜まで待って同接を増やすと他の配信者が先に取り上げられるかもしれないのでそれに先駆けて配信を始めた。


 急いでモデルを表示させ、配信ソフトを設定して入手した情報のあらましを背景にして配信を開始した。


 そして面白おかしく醜聞を茶化しながら解説していった。同接は配信を始めてからドンドン増えていく。いい気になって口が回っていると、コメントに奇妙なものが混じってきた。


『なんか顔色悪くね?』

『モデルデータいじったか』

『それにしては悪趣味』


 そういったコメントが付いたのだが、画面にはいつもと変わらないモデルが表示されている。意味が分からないのでアンチの適当なコメントなのだろうと無視して配信を進め、ゴシップの解説が全て終わったので、コメント返しをして配信を閉じた。


 久しぶりに面白いネタが来たな、まだまだ擦れそうなネタなのですり切れるまでネタにしてやろうか、そんな考えをしながら今日の配信の振り返りをした。


 そしてアーカイブを見ていると背筋が寒くなる感覚を覚えた。


 なんと配信画面では問題無かったのに、アーカイブに残っている映像では3Dモデルの顔色が青白くなっているのだ。念のため別のウインドウでモデルデータを開いたが、一切変化はしていない。何故か配信画面だけで奇妙な顔色になっていた。


 配信のチェックをしていくとドンドンと顔色が悪くなっていく。しかも顔色が悪いと言っても、体調が悪いときの青白さではなく、まだら模様のような気持ちの悪い顔色になった。


 怖くなってそのアーカイブは削除し、しばらくの間雑談配信をした。すると好意的なコメントも付き、アーカイブでおかしな現象が起きることも無くなったので、今では彼はネタ雑談をする配信者に変わったそうだ。それでもなかなか心地よい配信だし、同接も炎上しまくっていた頃に近づいてきたので、もうあの手のゴシップを扱うつもりは無いそうだ。

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