無知と禁忌
佐竹さんがまだ小学生だった頃の話。その学校ではオカルトが話題に上がらなかったので怪談ブームなどは無かった。ただ、それが理由に普通は避けるであろう行為も、そもそもよくないことだと分からず生徒が考えずにやってしまうこともあった。
ただ、それで実害が出てこなかったのはオカルトがオカルトたる所以だろう。実害が無いのはただの噂に過ぎないという身も蓋もない意見も出た。
これではサンタの存在を信じているかどうかのような話だが、夢の無い話として教師も生徒もほとんど無視をしていた。
佐竹さんが災難に遭ったのは学芸会の準備中だ。学芸会で使う姿見を運んでいた。教師にはガラスを割らないようにとしつこいくらい言われていたので慎重に抱えて階段をのぼっていた。学校の怪談には踊り場に水道と鏡が設置されているのだが、疲れていたので踊り場で鏡を置いて一休みをすることにした。
鏡を置いて一息ついて水道から少し水を飲んで落ち着いた。それから姿見に振り返って運ぼうとしたところで姿見と踊り場の鏡が合わせ鏡になっていることに気が付いた。ただ、本当に驚いたのはそこではない。
姿見にずらっと踊り場との間に立つ自分が写っている……ただ……一つの自分があくびをしていた。他の全ての自分が姿見に驚いているところで、その一人は自分が別の動きをしているのを見られたことに驚いているようだった。
その人影はすぐに自分と同じ動きをはじめ、少し踊り場で鏡の前に立って動いてみたが、それ以降一切相違なく自分の動きを全ての自分がトレースしていた。
気のせいだと思い、忘れることにして目的の教室に持っていった。運んだときに『遅かったわね』と教師に言われたが、ムッとしたところ、教師の方も姿見を見て無言で視線を逸らした。その事から、実はこれに何か曰くがあるのを知っていたのではないかと今にして思っているらしい。
その後、普通に学芸会は終わったのだが、次の日から自分が運んだ姿見に目隠しのシーツが掛けられていたので、こんなものをわざわざ運ばせたのかと思ったそうだ。
結局あの鏡は運んだだけで役に立つことは無かった。不満はあった、しかしあんなものを見たと言ったところで正気を疑われるだけなのが目に見えていたし、当の担任はキレやすい、本当に小学生の相手に向いていない教師だったので言ったところでまともな答えは無いだろうから諦めた。
ただ、学芸会の片付けの時にその姿見はシーツを掛けて見えないようにしたまま教師陣が複数人で運んでいた。あんな気持ちの悪いものを何故捨てたり壊したりしないのかと思ったが、もしアレを壊したとしたら、あの時自分の動きをまねていた何かが出てくるのかなと思わざるをえない。
「今更言っても仕方ないですけど、あの小学校には秘密が多かったんだと思いますよ、七不思議だって実際はあったんじゃないかと思ってます、教師陣が隠し続けた結果子供が忘れただけじゃ無いでしょうか? あるいは何かあっても隠し続けているか、どちらにしても本当の事なんてもう出てこないんでしょうけど」
そう言って彼女は話を終えた。真実は全て闇に葬られたが、記憶だけは残っている。運が良かったのか、小学校で子供に実害の出る怪異は無かったので問題無いのだろうと言っていた。
その小学校は今でもあるそうだが、当時は図書室に定番であった怪談本を一切置いていないのも、今にして思えば何か事情があるのではないかということだ。
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