神社と不良

 世の中には偶然という物がある。ただ、そこに何か運命的なものを感じることもまたあるものだ。話を伺った田村さんは偶然で片付けたくないことを体験したそうだ。


 彼がまだ高校生の頃、学校をサボって人気のない神社でこっそりとパック酒を飲みながらタバコを吹かしていた。当然褒められたことではないどころか、当時にしたって法律的にアウトなのだが、まだその頃は見て見ぬ振り程度に黙認されているような世情があった。


 そんな荒れた高校生活を送っていたのだが、ある日神社でいつも通りタバコを吸おうと咥えてからライターで火を付けようとした。そのときにビュウと突風が吹きライターの火が消える。体の向きを変えて風が当たらないように火を付けようとするのだが、何回やっても別の方向から風が吹いてきてライターが消える。酒も飲んでいたが、タバコを吸えないとあまり美味しくないので渋々ながら帰宅をした。


 今更この時間に高校に行くくらいなら無断欠席の方がいいだろうと勝手にサボることにした。ただ、翌日登校すると幾人もの席が空になっている。おかしいなと思ったので隣の席にいた友人の山田に何があったのか聞いてみた。


「なんや? お前知らんかったんか? ほら、あそこの神社あるやろ? あそこで教師連中がタバコと酒をやってるやつが多いからって取り締まりに行ったんだよ。つーかお前もよく捕まらなかったな」


 どうやらあの神社で授業が終わった後たむろしている不良たちを一網打尽にすべく教師陣が本気を出したらしい。ただ、パック酒もタバコもしっかり持ち帰っていたので自分がそこにいた証拠は無い。おかげで取り締まりから逃げることが出来た。


 そうなると、あの時神社でライターの火が付かなかったのは偶然だとは思えなくなってくる。もしあの時火が付いたらのんびりタバコと酒を長々と楽しむつもりだったからだ。そんなに都合よく風が吹くのだろうか?


 考えていると、ふと昔のことが思い浮かぶ、それはまだ幼い頃あの神社で七五三をやった記憶だ。ウチは昔からあの神社と縁が深い。だから俺みたいなただの不良にも警告をしてくれたのだろうと思った。


 神仏の類いは信じていなかった彼だが、こうなってしまうと偶然で片付けて良いものかは分からない。ただの偶然かもしれないが、それにしてはタバコを吸わせないように都合よく風が吹いていたと思う。


 その日の帰り道、神社によるとポイッとお賽銭を数百円投げて手を合わせ、先日のことを感謝した。


 それから困ったことがある度神社に参ってきちんと身銭を切る程度には信心深くなった。勉強も熱心にしたのでなんとか真人間に戻ることが出来た。これは神様が助けてくれたのだと彼は本気で思っている。


 今では知っている人には大手で有名な企業に就職し、普通に働いているそうなのだが、その地域は神社が多く、小銭入れをいつも携帯し、時間があって神社が近くにあれば、商売が美味く生きますようにと願をかけているそうだ。そのおかげかどうかは知らないが、それなりに会社でも良い成績を出しているそうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る