恋人が幽霊

 武さんは高校時代の嫌な思い出が今でも足を引っ張っているそうだ。彼はなんともいえない諦めのような表情で語る。


「今でも続いてるんすよねえ……勘弁してくんないかなあ……」


 そう言って彼は今でも続く話を始めた。


 はじめは高校で初めて恋人が出来たときのことだった。高校一年の冬、まだ大学の具体的な形が見えていなかった頃、冬に彼女と一緒に歩いていた。そんな時、彼女が鞄からスマホを取り出して見せてきた。


「へへへ……お年玉で買ったんだ! お年玉も高校出ちゃったらもらえなくなるかなあ……しょうがないね、せっかくだし一枚撮らせてよ!」


 そう言う彼女に断る理由などなかったので快諾した。そして彼女はレンズをこちらに向けてカシャッと音を立てた。その途端彼女が引きつった顔になり、何か言いたそうにしている。


「どうした、上手く撮れなかったか?」


 そう聞くとおずおずとスマホの画面をこちらに見せてきた。思わず胆力があると自負している自分も悲鳴を上げそうになった。画面に移る自分の首にどこから伸びたか分からない、長くて青白い手が伸びてきて首のまわりにマフラーのように巻き付いていた。


 ただの心霊写真なら笑い飛ばすところだが、何しろ写っているのが自分と来ている、これには流石にドン引きした。しかし彼女の手前、度胸を見せて『何かに憑かれてんのかな? 腕だけなんて根性のない幽霊だな』そう強がりを言ったのだが、実際はその幽霊は非常に根性があった。


 何しろ彼女が撮影する自分の写真には必ず体のどこかに手が巻き付いているのだ。自分の体に害はないのだが、そんなことが続くと彼女の心も離れてしまい、あえなく自然消滅となってしまった。


 しかしそのときも『運が悪かったな』としか考えていなかった。質の悪い幽霊もいたもんだと思いながら、ふと自分のスマホで自撮りをしてみた。そのときは確かに自分にはあの手が全く写らない。彼女が撮らないと写らないようなので、彼女が霊感体質だったのではないかと思った。


 しかし高校ではそんな噂が立った手前、恋人には縁のない生活を送ってしまった。そのせいで勉強に身が入って大学に行ったのだが、そこで出来た恋人でも同じ現象は起きた。そのときの彼女が撮影した写真にだけあの不気味な手が写るのだ。自撮りでは決して写らない、気が重くなったのだがお祓いや縁切り神社なども試したそうだが意味が無かった。


 それどころかお祓いの時は『あなたには何も見えませんな』と言われる始末だった。


 結局諦めて彼女は作れないものだと割り切ってしまったそうだ。今は就職した彼だが、職場で幽霊に憑かれているという噂が立っては困るので決して職場の女性には手を出さないように心がけているそうだ。


 彼は『ヤンデレって言葉を聞いたことがあるんですが、幽霊にもそう言うのってあるんでしょうかね?』と最後に言っていた。彼はそのあと『幽霊オーケーの女生とか知りません?』と言われたのでさすがの私も困惑したのだった。

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