誰が戦った?

 その日、根本さんは奇妙な体験をしたそうだ。ある意味ではチートだったのかもしれないが、出来れば本人が嘘をついているのだと思ってほしいという。


 その日、友人たちとフレンドコードを入れてゲームをしていた。バトロワゲーだが友人たちのチームで対戦をしていた。その中に一人、斉藤くんというはっきり言えばゲームが弱い子が一人いた。彼はいつも真っ先に点数稼ぎに狙われていたのだが、その日の彼は一味違った。


 近寄ろうにもスナイパーライフルで見事にヘッドショットを決められる。どうやっているのだろうと不思議になる程だ。ようやく近寄ったかと思えばショットガンに持ち替えた彼のキャラが待っていて、ショットガンとは思えないエイムで致命傷を与えてくる。


 その日の彼は最強なのでは無いかと思えるほどの強さだった。元々彼はやっと狙っている方に弾が飛ばせる程度の実力しかなかったはずなのに立ち回りが上手すぎる。結局、斉藤くんの圧倒的勝利でゲームが終わった。


 話題は突然強くなった斉藤くんの話で持ちきりになり、ゲームが終わってからボイスチャットでみんな集まることにした。斉藤くんはルームに入ってこなかったのだが、みんなで『アイツスゲーよな』と話題に上げている。


 そんな突然強くなった斉藤くんだが、誰だったかがはじめに『アイツコンバーターでも使ったんじゃね?』と話に出した。コンバーターとはマウスでパッドを使っているように見せかけるチート器機だ。


「いや、あいつは……そんな金ないだろ」


 身も蓋もなく言えば彼はあまり裕福ではない。そんなニッチな器機を買う余裕は無いだろうというのが大体の意見だった。


 結局彼が何故突然強くなったのか分からないままルームが解散しようとしたところで、斉藤くんがボイスチャットに入ってきた。


『なんの話してんの? みんなして集まってるの珍しいな』


 多くの人が『何を言ってるんだコイツ』という困惑をしていた。みんなして『お前の話だよ』『今日スゲー強かったじゃん』『何やったんだ?』と言うのだが、肝心の斉藤くんからは言葉が出てこない。みんなが彼に言及するのでようやく彼が話をした。


「いや……俺は今日親戚の法事で一日いなかったぞ? 誰かと勘違いしてないか?」


 フレンドしか入れなかったはずなのにどうやって他の誰かが入ってくると言うのか、他の友人も『いや、お前だろ』と言う雰囲気になっていた。


 そこで否定していた斉藤くんだが、何か言いたそうに『あの……』とか『えっ……』とかの言葉を言い出していた。彼がチートをしたのでは無いかという流れに話ががなりそうだったので、流石の斉藤くんもそこで口を挟んだ。


「なあ、今日やってたFPSって○○○○じゃないか?」


「ん? そりゃそうだろ。ってかお前入ってたじゃん」


「いつからそんなに強くなったんだよ」


 そんな言葉を聞き続けた後、斉藤くんは気が乗らないように言う。


「いや、今日の法事って親戚の一周忌なんだけどさ……あいつ、そのゲーム上手かったんだよ。俺なんて一回も勝てなかったよ。まあ、アイツの方が死んじまったんだけどな」


 全員に思い沈黙が流れた。それから口々に『まあそんなこともあるだろ』『あんま気に病むなよ』などの言葉が流れてその日のゲームは終わった。


 後日、またフレンドを集めて戦ったのだが、いつも通り斉藤くんはカモにされていた。あの時戦っていたのは一体誰だったのか考えたくもないそうだ。

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