サクラの木にも埋まっていない

 吉野さんは結構本を読むのだが、現実はもっとおぞましいのでは無いかと思う出来事があった。


 はじめは病院の側に大きめの公園が出来たんです。そのときは誰も気にしませんでした。その公園はきちんと整備をされ、中央に大きなソメイヨシノだが植樹された。そのときは春に入院している患者が見たところ綺麗に花が咲く四月頃は大変評判がよかった。


 そう、そこまでは近隣住民でさえ歓迎していた。しかし、その公園が私有地で、公園となっているが、実際は私有地を開放していただけだった。


 しかし、突如その公園は変わってしまった。なんと持ち主の企業がこれからは樹木葬をする墓地にすると言い出した。流石にそれはと住人たちもそれなりに反対したのだが、それでも話は進んで行ってしまった。


 病院の裏が墓地、そう考えると寒気が走るが、肝心の患者さんが『儂もあそこに入りたいのう』などと言い始めたので議論の結末は決まっていった。何しろ需要のターゲットが歓迎しているのだから周辺住民は文句も言えない。


 流れるように公園は封鎖され、簡単な建物と、公園から墓地へ変えるための工事が始まった。もうその頃には住人は諦め気味になった。


 そうして反対も言えず、おとなしく出来上がるのを待つしか無かった。


 そして墓地としてその公園は大変人気で次から次へと人が入ってくる。中には病院からリベートをもらったのではないかという怪しげな患者も急にそこに埋葬することが決まったりしていた。


 近所の人は縁起でもないと言ったところで馬耳東風を貫き通す葬儀社だった。


 しかし、広大な公園というわけではないので、墓地に埋葬していくと明らかにおかしいことに誰かが気づいた。葬儀された人数からして墓地はとっくに埋まっていてもおかしくない人数が埋葬されている。


 その噂は出回ったものの、そのときは上手く鎮火して炎上することを避けたそうだ。あくまで追求するのが住人だったのでそれは一顧だにされなかった。


 そんな時、ギャンブルで儲けた人が出たのだが。かなり儲けた、その人は自宅近くの墓地が気に入っておらず、金を持ったのをいいことに金の力で探偵に墓地を張らせた。


 その結果……夜のうちにこっそりと葬儀業者が徐々に埋葬場所から骨壺を掘りだして他所に持っていったそうだ。証拠も暗視カメラで撮影されていたので、その不正を告発した。


 その結果、指導が入って墓地を元に戻し、遺骨はしかるべき場所に埋葬するようにと結果がまとまった。


 結局、これだけならただの悪徳業者と言うだけの話なのだが、どうしてもその後不思議な事は起きたのだそうだ。


 噂は多かったが吉野さんが体験した怪談は一つで、真夜中に窓の外から音が響いたので公園の方を覗いてみると、老人たちが酒盛りをしていた。文句の一つでも言おうかと思って気づいた。公園に街灯のような光源がないのに何故かその老人たちは見えたのだ。文句を言う気も萎えきってしまい、その晩はさっさと寝た。


 それ以来、早起きがいつもの習慣になっているそうだ。

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