友情の結果

あれから私はスッパリと蝶華との付き合いを止めてしまい、夢子も徐々にフェードアウトしてしまったが、なんと一番被害を受けていた優子とは関係は変わってないという。


だから当然蝶華も来る。


それが少々気持ちを曇らせたが……結婚式の時間くらいなら、シレッとお互い話するくらいできるだろう。


そんな覚悟を決めた後、チョコチョコと知っている顔が集まりだして、自分の指定されているテーブルへとついていった。


そして高校時代の友達の姿が見えたので手を振ると、その子はこっちに来て挨拶をしてくれた。



「 久しぶり!何年ぶりかな〜。  」


「 ホント久しぶりだねぇ〜。


二人とも優子と仲良しグループだったから絶対来ると思ってたんだぁ〜。


それに……。 」



その子はチラッとまだ空いている席を見て、ハァ……とため息をつく。



「 花野さんも……ね。


流石に大人だからさぁ……この場で嫌な顔は見せないけど、正直会いたくないんだよね。


私、実は高校時代に花野さんに彼氏盗られたんだ。


しかもその直後彼をアッサリ振って、私に ” ごめんね♡ ” って……。


あの時の顔、まだ覚えてる。


優越感に酔いしれた顔!吐き気がするよ。 」



「 そ、そうだったんだ……。 」



それは初めて聞いたので、驚いてくると、その子はヒソヒソと内緒話をする様に言った。



「 しかも私だけじゃなくて、クラスの女子全員やられたんだよね。


正直優子が、なんでまだあんな女と付き合っているのか分からないわ。


一番被害受けてるの自分なのにさ。 」



確かにそれには同意しかできなかったので苦笑いを返すと、その子はゾロゾロと後から入ってきた沢山の招待客の姿を見て、直ぐに口を閉じる。


そして後でね!と言ってそそくさとその場を去っていった。



もはや呆れる事しかできない蝶華の話に、再度ため息が出てしまったが、入口から入ってきた人物を見て、息が止まる。


周りにいる男性達が、自然と目で追いかけてしまう美しい容姿。


派手ではない清楚なドレスにずっと変わらないダークブラウンのストレートヘアー。


垂れ下がった眉とタレ目は男の加護欲を誘う。



「 蝶華……。 」



久しぶりに見た蝶華は、三十も近いというのに老いも感じず相変わらず綺麗なまま。


顔が引きつりそうになったが、近づいてきた蝶華に向かい私と夢子は声を掛けた。



「 ひ、久しぶり〜……。 」


「 ……オヒサ〜。 」


「 ……久しぶり。 」



一応ニコッと笑う私達とは違い、蝶華はブスッ!としていて不機嫌全開だ。


それに少々違和感を感じる。


おかしいな……?蝶華が男の目もあるのに不機嫌を出すなんて……。


蝶華は私達だけの場合は、結構こんな感じで不機嫌を出すが、男の目がある所で出す事はなかった。


同じく違和感を感じている夢子と目を合わせたが、結局理由は分からず。


そしてそのまま結婚式は進行し────結局蝶華は不機嫌な状態のまま式は終わってしまった。



「 皆!今日は来てくれてありがとう! 」



優子が最後旦那さんと並んで私達の所に来てくれたため、私と夢子はワッ!と喜ぶ。


しかし……やはり蝶華はブスッとしたままで、更に優子の旦那さんをギロッ!と睨みつけた。


それにギョッとしたが、優子が蝶華の手を取ったので、そちらに意識が向く。



「 こんな最高な人と出会えて結婚できたのは、全部蝶華のお陰だよ。


本当にありがとう。 」



その時の優子は本当に嬉しそうで……わけがわからない私はポカンとしてしまったが、蝶華は引きつった顔で優子の手を振りほどく。



「 ────っ!!ふっざけんじゃないわよ!!


ばっかじゃない!?そんなクズ男選んじゃって、優子っていつも男見る目ないもんね!!


────あ〜やだやだ!!こんなクソみたいな結婚式来るんじゃなかった!!


料理も美味しくないし、装飾もダサいし!!


どうせすぐ離婚するわよ、ば〜かっ!!! 」



怒鳴るだけ怒鳴って、そのまま足早に去ってしまった蝶華。


あまりの剣幕に夢子と共に固まってしまったが、優子は「 悪い事しちゃったかな〜……。 」と割とあっさりしている。


流石にあんなに怒った蝶華は初めて見たので、恐る恐る優子に尋ねた。



「 えっと……蝶華と何があったの……? 」



「 あ〜……。実はさ……。 」



その後ヒソヒソと話される話に、私と夢子はええええ〜!!と同時に叫んでしまう。



何でも今の旦那さんと出会って直ぐ、いつもの様に蝶華が近づいてきたらしいのだが、なんとこの旦那さんがそれを見事に撃退したらしい。



” 優子はすごく仕事もできて〜いつも凄いなって思ってるんですぅ〜。


いいな〜って!


私はぁ〜ホントにお仕事何もできなくてぇ〜……。 ”



ウルウルとした目で見上げながらの蝶華の言葉。


だいたいの男性はこれにクラッとくるのか ” そんなことないよ! ” などと慰めの言葉が続くのだが、この旦那さんは違った。



” ?じゃあ努力したらどうですか?


正直もう新人に指導するご年齢ですよね?


それは相当まずいと思いますよ。 ”



────ズバッ!!



空気が凍りつくほどのストレートな言葉に、蝶華も一瞬固まったらしいが、まだめげない。



” そっ、そうですよねぇ〜!


だから私、これからお仕事がんばりたいと思ってるんです。


でも何から頑張ればいいのか分からないので、よかったらお話聞かせてくれませんか?


色々教えて下さ〜い。 ”



キラキラ〜!


ウルウル!


首を軽く傾げておねだりポーズをした蝶華だったが……旦那さんはキョトンとした顔で言ったそうだ。



” ??なぜ僕なんですか??


失礼ですが、僕とは仕事の業種が違うので、相談されても分からないと思います。


お仕事の場に最適な方が沢山いますよね? ”



” ────えっ!?


……そ、そのぉ〜……やっぱり身近な人だと相談しやすいっていうかぁ〜……。


そっ、それに優子からすごく優秀だって聞いてたし、こうしてお会いしたら優しそうな人だなって……。


それに私……同性の方にすごく嫌われる事が多くて……。 ”



いつもと違う反応にオロオロしながら蝶華はそう答えたらしいが、旦那さんは大きなため息をつく。



” 少なくとも会って間もない人間に、人生の今後を相談しては駄目ですよ。


同性に嫌われる……それは不思議ですね。


まずはその理由を考えてみたらどうでしょうか?


①嫌われる原因を考える


②それを改善する


③仕事の相談をする


④アドバイスに従って早急に仕事に対し努力をしてみる


貴方にできるBESTな選択はそれしかないでしょう。


どうか頑張って下さいね。 ”



そのままニコニコと笑顔の旦那さんを相手に、蝶華はブチギレ!


今の様に怒鳴りながらドスドスと帰っていったらしい。



ブブ────!!!



私と夢子はそこで吹き出してしまったが、優子は嬉しそうに笑っていて、続けて言った。



「 旦那ね、コレ嫌味とかで言ったんじゃなくて、本気で言ってるんだよ。


私に対してもこんな感じで、ズバズバ言ってくるけど、すごく的を得ているというか……そこにベタ惚れしちゃったんだ。 」



「 そ、そう。おっ面白い旦那さんだね。 」


「 お、大物……。 」



ピクピク息も絶え絶えでそう答えると、優子はフッと悲しげに目を伏せる。



「 ……私の父ね、小さい頃に浮気して出ていったからさ。


相手の女の人が怒鳴り込んできたりで、本当に修羅場だったの。


母の悲しむ姿はとても悲しいモノだったし、子どもの私も本当に辛かった……。


だから私、男の人の浮気だけはどうしても許せないの。


それ以外は割と平気なんだけど……。 」



初めて感じる怒気のオーラを優子から感じてびっくりしたが、そういえば……と思い出す。


優子は高校生の時既に母子家庭で育っていて、詳しくは語らなかったが ” 父が大嫌いだ。 ” と言っていた。


まさかこんな理由があったとは……。


なんとも言えず私達は優子を見つめたが、その後はカラッ!とした笑顔を見せてくれる。



「 だから、蝶華にはすごく感謝しているの!


わざわざ調べなくても、いつも私のお付き合いしようとする男の人に声を掛けてくれて浮気男を撃退してくれたでしょう?


多分蝶華がいなかったら、一生恋愛も結婚もできなかったと思う。


自分の見る目に自信なかったし、一生疑心暗鬼で恋愛も続けられなかったよ、きっと。


今回の事で今の旦那は絶対浮気なんてしないタイプだって自信が持てたから、結婚できたんだ。


本当に嬉しい! 」



とんでもない事を言い出した優子に、今度はポカーン……。



えっ……そ、そんな見方もあるんだ……。



自分から見る視点とあまりにも違うため内心戸惑ったが、とりあえず優子から見た蝶華は ” 害悪 ” には当たらず、むしろ ” 恩人 ” である様だ。


優子は、本当に嬉しそうに笑い、「 またご飯食べに行こうね! 」とだけ告げて、旦那になった人と行ってしまった。



残された私と夢子は顔を見合わせ、また吹き出すと、そのまま大爆笑。


ずっと優子は優しいから蝶華に何をされても許していたのかと思っていたが、そうではなかった。



「 まぁ、これも一つ友情の形……人との関係性なのかな? 」


「 考え方によるモノなんだろうね。


お互いそれで納得しているなら、それも一つの友情なんじゃない? 」



なんだか長い間ベッタリついていたモノがとれた感じ。


そしてすっきりした気持ちになってフッと気付く。



あぁ、私蝶華のせいで恋愛に対してトラウマ的な思いがあったんだって。



それが今回の出来事で吹き飛び、なんだか私も恋愛というモノがしたくなってきた。


その心境の変化に驚きながら優子と旦那さんの背中を見つめる。



「 私も最高の旦那、探そうかな!


なんだかワクワクしてきた。 」



それに対しての夢子の答えは「 3次元はちょっと……。 」だったため、また吹き出してしまった。


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秘密の女園 バナナ男さん @bananaotoko

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