紅朔羅(くれないさくら) 〜全ての殺し屋を殺すだけの簡単なお仕事〜

ODN

第1話:殺し屋殺し殺し(Murder Killer Killer)

都会の片隅だが人っ気の無い裏路地。


「◯◯組系の殺し屋が集まっている、デカいヤマがあるらしい」

「ふぅーん……いいよ、今夜やる」


スーツの男が分厚い茶封筒を渡す。

受け取った少女は中身を確認もせずカバンに放り込むとゴミ箱に飛び乗り、ビルの窓、雨樋のパイプ、非常階段とあっという間に駆け上がり都会の喧騒へと消えていった。


「……あぁ、今夜だ」


その日の深夜、とある廃墟ビル、どう見ても怪しい雰囲気を醸し出してる場所にも関わらず、先ほどの少女が中に入っていく。

明るい髪色、ツーサイドアップの髪型、猫のような眼差し、ミニスカのセーラー服に虎の刺繍が入ったスカジャン。

メイクは少しギャルっぽいが、線の細さからか見た目はかなり幼く見える。


「おぃ、ここは立ち入り禁s……」


屈強な男が少女の前に立ち塞がるや否や、少女は既にすれ違っている。


「わかってるよ、通してね」


男は振り向きながら首から血を吹き、無言で倒れる。


コンコン


「なんだよ、まだ見張り交代の時間じゃねぇぞ」


ドアが開くと、その脇をスルリと抜けて少女が室内に入る。


「こんばんわ」


5、6人はいるようだが、あまりの展開に全員がポカンとしている。


「……な、なんだよ、お嬢ちゃん。ここは君みたいな子が来るとこじゃないよ」


1人が歩み寄るがその瞬間、股下から左右に分断される。

手には日本刀、あまりのキレ味に血が吹き出る間も無く崩れ落ちる。

全員が武器を取り少女に向ける。

背を向けたまま佇む少女。


「……」


刀のつばを親指でカチあげると高周波とともに刃が震えだす。

その振動が空気を伝わり、男たちはみな息を飲んだがその刹那、少女はありえないほどの速度で室内を駆け巡る。

拳銃もドスもテーブルも、石の柱でさえも関係なく眼前のもの全てを切り刻む。

ほんの数秒で息をしているモノが少女だけとなった。


「……ふぅ」

「すっばらしいよ、すっばらしい戦闘能力だ」


拍手をしながら部屋の奥の扉から男が現れる。

真ん中分け黒髪の長髪、2m近い身長でかなりの痩せ形。

白いスーツ姿だが顔にはVRゴーグルのようなものを付けている。


「とても楽しく美しいショーでしたよ、」


話し終わる前に少女は斬り掛かる、が。


きぃぃーーーん


「超振動ブレードは無意味だよ、この籠手こては同じ周波数で振動してる。振動さえ相殺してしまえばそんなナマクラ、どうにもならないねぇ」


スーツの袖下に機械仕掛けの籠手を装備している。

何度か斬り掛かるが、全て簡単に払い落とされる。


「香取神道流ね、太刀筋はいいけど……素直すぎるなぁ」


間合いを一旦離し、スカート下に隠し持っている苦無を投げつける。

しかしこれも簡単に弾かれてしまう。


「このゴーグルは視界に入りさえすれば弾丸すら予測して籠手と連動し自動防御する。手裏剣なんか止まって見えるんだよぅ」


再度斬り掛かろうとした時、男が先に動き出す。

ゆらりゆらりと揺れているが、そこから残像が残るほどの速さで間合いを詰められる。


「さっきまでの威勢はどうしたんですか!?こう接近されたのでは長い刀も振り切れませんかねぇ!」


刃仕込みの手刀、しかも動きが変則的で読みにくい。

致命傷などは避けられているが、僅か数秒の攻防で少女は血塗ちまみれになってしまう。


「くっ……はぁっ!」


踵を強く踏み込むとローファーから仕込みナイフが飛び出す。

逆立ちするような蹴りで顎先を狙うが、簡単に避けられる。


「そんなところにまで武器が……これは知らなかった、おもしろい、すっばらしいよ」


間合いを開け、少女は一呼吸入れる。


「ふぅ……仕方ない」


そう言いながら胸ポケットから棒付きキャンディを取り出す。


「休憩ですか」

「いや、こっから本番」


飴を咥えた瞬間、髪が逆立つ。

口元に薄ら笑いを浮かべながら、大きく開かれた右目が赤く光る。

その赤い光の軌跡残しながら、先ほどまでとは明らかに違う速度で斬り掛かる。


「なるほど、これがCrim-Ζ-oneか、すっばらしぃ」


しかしそれでも斬撃は通らない。

体術とゴーグル+籠手の絶対防御が全ての攻撃を遮断する。

とは言え、少女も男の手刀攻撃を先読みしているかのように躱し切っている。


「そのゴーグル……邪魔だな」


再び少女は距離を取り、苦無を投げる。

当然のごとく弾かれてしまうが、スカートを翻し、内腿に隠し持っていた小型銃デリンジャーが後ろ手に火を吹く。

しかしその照準は明後日の方向を向いていた。


「何処を狙ってるんですか!」


銃を撃った体をさらに翻し、右肩に刀を担いだ状態で相手 袈裟けさ目掛けて一気に突っ込む。


「焦り過ぎです、そんな攻撃が当たr」


ばきん!


男のゴーグルの右側を苦無が直撃している。


「なっ……」

「んーーーーちぇすとぉっ!」


左足で地面を踏み体を止め、右足で更に前に踏み込む。

強力な踏み込みから死に太刀を恐れぬ全力の一撃が放たれる。


「示現流!?そんな大振り、ゴーグルがなくとも!」


クロスガードがギリギリで間に合うが、ガードごと鎖骨に刃をねじ込む。


「ぐぎぎぎ……」

「どうりゃぁっ!!」


ずばーーーーん!!


男はそのまま地面に叩きつけられた反動で天井付近まで打ち上げられる。


(ここだ!)


超振動スイッチを切り、逆風(さかかぜ)の状態で床に刀を突き立てる。

そのまま上に切り上げる形となるが、当然動かない。


「振動全開!」


再び親指で鍔をカチあげ、そこから柄を引き伸ばす。


キィィィィィィーーーン!


耳を擘く高周波と共に今までの超振動を超える超・超振動が発生、貯られた力が床を切断しながら一気に解放される。

速度と振動が空気を切り裂き、その摩擦熱で刀身を赤く燃え焦がす。


「朔羅ぁっ!」


自分で名付けた唯一の必殺剣の名を叫びながら、浮き上がる相手の腰を刃が捉えた。

その刹那、赤い弧がまるで三日月のように輝きシルエットの中で飛び散る血と肉塊。

切断と言うより粉砕する、それでいて音もなく切り抜く独自の斬撃。


「……すっばらしいよ、すっばらしい」


小型銃を拾い、分断された上半身に近付くと、少女は男に話しかける。


「ねぇ」

「……弾いた苦無に弾丸を当てて死角から飛ばすなんて、すっばらしいアイデアだよ、すっばらしい」

「あんた10年前の笹塚であった要人殺人事件のこと、知ってる?」


男は恍惚とした表情で空を見ながら語り出した。


「……知ってるさ、わたしも……その場にいたからね」


少女の表情が変わった。


「……そうその目だよ、キミは変わってないのだな。あんな惨殺現場を……ご両親が匿ってくださったタンスの中から目の当たりにしてただろうに、恐怖で怯えているかと思えば……目と口から血を流しながら睨みつけてくるんだ。殺意の塊みたいな糞餓鬼、殺さず生かしておけばきっとすっばらしい事が起こる、そう確信したよね」

「お前が父ちゃんたちを殺したのか」

「わたしだけじゃ……ないよ、現場にいたのは4人の殺し屋さ。MKの壊滅を狙うホーカスポーカスっていう殺し屋グループの現幹部だよ。あと3人……キミが狙うべき相手はあと3人いるんだ」


さらに少女の表情が変わる。

その表情は年齢からは考えられないほどの狂気をはらんでいた。


「3人、あと3人だな」

「しかしすっばらしいよ!わたしの望んだ結果!こんな未来を焦がれていたのだよ、すっばらしい、最高だ!気持ち良すぎて昇天しちゃうよ!すっb」


ばんっ!


「うるさいだまれ」


苦虫を噛み潰す様な表情で顔面をゴーグルごと打ち抜く。


「やっと……見つけた……」


都会の片隅だが人っ気の無い裏路地。


「残りの報酬だ、また依頼を待て」

「わかった。あ、そうだ、ちょっと待って」

「なんd」


背後から首元に苦無を押し当て、耳元で囁きかける。


「なぜ、あの殺し屋があたしの武器の防御方法を知ってたの」

「……おまえもそれだけ有名になったってことだろう」

「超振動ブレードを防ぐには同じ周波数の高周波で振動させる必要がある、そんなの情報が漏れてでもいない限り不可能なんだけど」

「殺しのプロであればそれくらいわかるのだろう」

「つま先の仕込みナイフも読まれたし」

「……踵のナイフだろ、フェイクを入れて揺さぶる気か?」

「この武器は組織まーだー⭐︎きらーの誰にも見せていなかった、あたしのオリジナルなんだけど、なぜあんたは『踵の』ナイフを知っているんだ?」

「……」


少女はいつも殺しが終わるとこの場所で空を見上げている。

裏路地のビルの屋上、宵月よいづきは赤く光って見えていた。

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