第2話 こいつマジで聖職者か?

「――ええっと、つまりは、俺のせいで貴方の『奇跡』がおじゃんになり、今に至ると……?」


「ええそうよ、愚鈍ぐどん司祭。この百年、どれだけ私が自分の悲願を叶えたいと思ってきたか、アンタには分からないでしょうけれど!」


「ぐどんとは……?」


 東亜とうあ式に正しく座る男――ドゥマン・ヴァザールに、私は青筋を立ててまくし立てる。


「判断力、理解力が乏しく、頭が悪くのろまなことよ! 正しくアンタのことじゃない!」


「え? でも俺、神学校じゃ神童と呼ばれるくらい天才で、将来は大司教も夢じゃないって言われてて……」


「そんな大層な人ならば、適応力もあって然るべきでしょう! ここは南国の地、シドニア公国よ! みんな柄物シャツ一枚で過ごしているというのに、君はいつまで経ってもきっちり法礼服なんて着て! だから教誨きょうかい室で熱中症なんてなるのよ! まあ、それでアンタを助けた甲斐があって、二度目の『奇跡』を起こせたわけだけど……! やっと私の願いを叶えられると思ったのに! なぜ『神』は私ではなくアンタの願いを叶えるのよ、バカー!!!」


 もうわけが分からない。二度の「奇跡」を起こしたのは私なのに、「神」はアホ司祭――ドゥマン・ヴァザールの願いを叶えた。しかも、『願いを決済しました』なんて、金でも積んだのか、このアホは。


 またドゥマン・ヴァザールがわなわなと震えだした。片手で口を抑え、ボロボロと涙を流し始めた。


「俺のリリア・フラーシルが喋っているっ……! 可愛いっ! 最強っ! 俺の嫁確定っ……!」 


「うるせーわ! 誰がお前の嫁なんかになるか! 私には聖人になるという夢があるんだよ!」


 思わず素が出た。生前、宗教戦争時の女騎士バーサーカーモードが発動したため、私は深呼吸し、自身を落ち着かせた。


「聖人になるって本気ですか?」


「え? ああ、そうよ。私はフラミンゴス教会の聖人として認定されたいの。それが私の百年にも及ぶ悲願よ」


「そう、だったんですね……」


 ドゥマン・ヴァザールが唇を噛み締め、俯いた。この男が何を思っているかなんて、私にはお見通しよ。


「火あぶりで処刑されたリリア・フラーシルが聖人になりたいなんて、ちゃんちゃらおかしいと思っているんでしょう? でもね、フラミンゴス教会のために戦った私にとって、聖人になるということは、死後の名誉復活にもつながるのよ。このまま異端者の烙印らくいんを押されたままなんて嫌なの。だから――」


「聖人なんてなったらダメですよ! だって聖人って、けがれなき体でなければなれないんですよ! 今から俺がリリア・フラーシルの純潔を奪うってのにいいいい!!!」


 こいつマジで聖職者か――?


 ぶっ飛んだ頭の割に、その欲望を主張する瞳に、一点の曇もなかった。 






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