第32話 殺気が俺に向いた。

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 領都騎士団からの依頼は思ったとおりだった。


『石化』の『解除』が騎士団お抱えの【回復魔法士】では手に負えないから俺に『解除』をしてほしいという話だ。


 俺は副騎士団長と一緒に練兵場まで向かった。


 二人でむっつりと歩いていく心配をしたのだが幸い探索者ギルドの前に騎士団の馬車が止まっていた。流石は副騎士団長、歩いて移動などしないのだ。


 とはいえ、馬車の中でお互いにむっつりと黙っているのは変わりない。


 俺は腕を組み目を瞑って寝たふりをしていた。


 馬車が練兵場の敷地内に入る。


「一度で終わらせるから建物内で『石化』した人間もグラウンドに運んでくれ」


 俺の指示を受けて副騎士団長がさらに部下に指示を出し、部下たちがグラウンドに『石化』した騎士団員たちを運んでいく。


 挨拶のため騎士団長室に立ち寄ったが、流石に秘書室との境の扉に騎士団員は挟まっていなかった。騎士団の【回復魔法士】が何とかしたらしい。


「来てもらって悪いな」


 騎士団長が殊勝な言葉を述べた。


「いや、指名依頼は実績になるからな。こちらもありがたい話だよ」


 もっとも『石化』の原因は俺だけど。


 とはいえ、絡んできたのは騎士団が先だ。


 壮年騎士団長秘書がお茶を運んできた。俺にお茶を出す腕が微かに震えていた。よほど『石化』が堪えたらしい。


「その節は悪かったな。単純な興味なんだが自分が『石化』している間、意識はあるのか? それとも気付けば時間だけが経過していた?」


「石になっていく間、身体が石に! とは思いましたな。自分が『石化』を受けたのだとは理解できた。次に気付いたのは『解除』された時点です」


 なるほど。


 だとするとグラウンドの石になった騎士団員たちも俺に『石化』させられたとは知ってくれているだろう。もしもその記憶がなければ『解除』された瞬間、それまでの行動の続きをしてしまって俺に襲い掛かってきてしまう。


 準備が整うまでの間、騎士団長と顔を向き合わせてお茶を啜っていると突然、「騎士団の専属にならんか?」と騎士団長から口説かれた。


「人の下に付くのも人の上に立つのも性に合わん」


「そうか」


 しばし沈黙。


「専属が難しければ臨時でも良い。名前だけでも騎士団の指導役に連なってくれるとありがたいのだがね」


 こういうことらしい。


 誰とも知らぬ探索者にあっけなく潰滅されたのでは騎士団にとって恥だが相手が騎士団の指導役となれば訓練の一環となる。力の差はあって当然。そういう方便に着陸したいらしい。貴族らしい面子があるのだろう。


 あまり頑なに拒否して、では俺を倒して汚名をそそぐとか言い出されると面倒臭い。


「ではこうしよう。俺は騎士団から指名依頼を受けてここへ定期的に何かを納品する。納品のために訪れる俺のことをそちらが勝手に指導役と呼ぶのは拒まない」


「そんなところか。それで何を納品する?」


 俺は少し考えてから答えた。もし騎士団が俺を指導役と呼ぶなら何かそれっぽい納品をしなければならないだろう。ただ荷物を持ってくるだけでは駄目だ。


「生きたまま魔物を捕らえて来よう。そちらは勝手に実戦をして経験を積んでくれ。刃物を持たせないとか口に枷を嵌めるとか工夫をすれば相手の動きや間合いに慣れる訓練にはなるだろう。具体的な攻略法は俺には教えられないのでハンドリーに学んでくれ」


「できるのか?」


 騎士団長は目を見開いた。魔物は倒すより生きたまま捕まえるほうが格段に難しい。捕獲の可能性を懸念したのだろう。


「少なくとも一角兎アルミラージはできた。何を捕らえて持って来れるかはその時の運に寄るな。色を付けて買い上げてくれると俺の側もありがたい」


「承知した」


 そういう方向に話がついた。騎士団長は利害で会話ができる相手なので気楽な相手だ。


「準備ができました」と副騎士団長が俺を呼びに来た。


 副騎士団長の後に従って俺と騎士団長はグラウンドに向かった。


 ドミノ倒しのように倒れていた騎士団員は全員元通りに立たされていた。


 建物の中から運ばれて来た騎士団員たちも、やや外側に集めて立たされている。


 グラウンドにはあわせて千人超の『石化』した騎士団員が概ね直径三十メートル程度の円形を作って立っている。


 それとは別に多分一万人を超える規模の五体満足な騎士団員たちが整然と幾つもの列を作って『石化』した騎士団員たちの前に並んでいた。領都騎士団に所属する別の部隊員だろう。


「治した途端に襲わせるのはやめてくれよ」


 俺は騎士団長に釘を刺した。


「そんな真似はせん。団員たちに貴様の実力を知らしめたいだけだ。指導役だからな」


「なるほど」


 指導役らしく実力を見せておいたほうがいいということか?


 俺は石になった騎士団員たちの前に立った。


 俺の傍らには騎士団長と副騎士団長が立っている。


「やっていいか?」


 俺は騎士団長に確認した。


「ああ」


「『解除』」


 俺は無造作に『石化』を『解除』する魔法をかけた。


 固まっていた騎士団員たちが指や髪の毛の先から生身の体に戻って行った。


 きょろきょろと周囲を確認していた視線が一斉に俺に集中する。


 自分たちが俺に対して何をしようとして逆に俺にどうされたかを思い出したらしい。


 騎士団員たちが手にしていた武器の類も金属に戻っている。


 殺気が俺に向いた。




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                                  仁渓拝

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