第33話 何かいい魔物が捕れたら持ってくる。
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『石化』を『解除』された騎士団員たちの殺気が俺に向いた。
瞬間、「鎮まれい!」と騎士団長が一喝した。
「領主ではなく騎士団が独自に選定した指導役のギン氏だ。実力は身に染みて知ったと思う。非礼を働くな」
騎士団員たちは一様に静かになった。さすがは騎士団長と言ったところか。けれども、視線は変わらずに俺を睨んでいる。素直に俺に従おうなどという目は誰もしていない。
騎士団長が俺に向かって何か語れという顔をした。演説は得意ではないが仕方ない。
「縁あって協力することになった探索者のギンだ。石になっていた者たちは俺のことを所詮は腕相撲だけの奴だと思っているだろう。それ以外の者たちはそうとすら認識していないだろう。だから、腕相撲ではない実力を見せておく。誰でもいいからこの場で一番強い奴は前に出ろ」
思いきり俺は挑発した。
騎士団長の目が一人の騎士を射抜いている。
石になっていた者たちではなく、それ以外の一万人の中から最右列の先頭に立つ男だ。
他の騎士団員たちの目も一様に同じ者に向いていた。誰もが認める実力者なのだろう。
男は騎士団長を見返した。
騎士団長は頷き返した。
「俺だ」と、列から離れて男が俺の前に立った。
「そちらの得意な得物を使ってもらって構わない。但し、俺は探索者で【支援魔法士】だから騎士のようには戦えない。魔物の流儀で戦うが構わないか?」
「構わん」
「ありがとう」
俺は騎士団長に顔を向けた。
仕切りを頼むという意図だ。
騎士団長が俺と男の間に立った。
俺と男は十メートルぐらい離れている。
男が剣を抜いた。
清々しいほどに遠慮なく抜き身の刃のままだった。触れれば俺など真っ二つだろう。
俺は左手に杖をつくようにいつもの棍を手にして突っ立っていた。構えてすらいない。
威力は男、長さの優位は俺だろう。
「はじめ!」
騎士団長が宣言した。
俺は男に向かって歩きだした。
走るとかフェイントをするとか一切の駆け引きのような動きはしない。ただ距離を詰めるために歩くだけだ。
男は剣先を俺の喉元に向けた姿勢のまま動かない。
俺が歩いて前に出ても俺が以前いたままの場所に対して男は構えていた。
観客たちがざわりとした。
気にせず俺は男に手が届く距離まで近づいた。
右手の人差し指と中指の二本を立てると観衆たちにわかるように俺は仮想の刃を握っていますよというアピールをする。
男の喉笛に俺は指の先端を当てて横に引いた。
実際は無傷だが、もし俺の手に刃が握られていれば致命傷だろう。
剣を構える男の左脇の下から心臓に向かって右手の指で突く。
最後に棍を握ったままの左手で男の胸鎧の下の隙間に指を指し入れて摺り上げると開いた隙間に右手の二本指を突き刺した。刃なら心臓を貫いただろう。
都合三回、騎士団最強の男は俺に殺された。
その間、男はまったく動けずにいるまま見開いた目に俺の動きを映すだけだった。
いつぞやの騎士団長室での副騎士団長と同じようだ。
開始と同時に俺は男を麻痺させていた。
観衆からは一切声は上がらなかった。
歓声もブーイングも何もない。
今見た出来事に呆気に取られているだけだ。少なからぬ数の騎士団員たちが俺がコテンパンにされる姿を夢想したはずだが生憎様でした。
「魔物の攻撃に卑怯と訴えたいならばすればいい。俺は昨日あんたらの一部を『ゴブリン』レベルだと評した。『ゴブリン』ならば魔法は使わんが『ゴブリンメイジ』ならば『麻痺』ぐらい使う奴はいるぞ」
この世界の実際は知らない。前世の俺の各種ゲーム遍歴の中にはそういう奴もいた。
「魔物に勝つためには魔物の特徴を知る必要があるだろう。俺は、これからあんたたちのために魔物を捕らえて連れて来る役目を依頼された。どう戦えば勝てるのかはハンドリーから良く習え。役割分担だ。領主が選んだ指導役が気に食わないか知らんが実際にあんたらは弱いんだ。自分が強くなるためにもせいぜい領主を利用してやれ」
俺が指導役だなどというおこがましい言葉は口にしない。実際に俺がやるのは生け捕りにした魔物を納品するだけだ。基本はハンドリーに丸投げだ。本当に辞めやしないよな?
以上。俺の自己紹介は終わった。
「終わりだ」と俺は騎士団長に声をかけた。
騎士団長は我に返った。
「忸怩たる結果だが、これが対魔物相手の今の我々だ。諸君らの奮起と精進を期待する」
それっぽい言葉で騎士団長が場を締めた。それでも騎士団員たちから声は上がらない。色々と身に沁みちゃったのだろう。
俺はずっと剣を構えたままでいる男に『解除』をかけた。
男は全身に力を入れて抵抗を続けていたのだろう、麻痺が消え力尽きたのか崩れ落ちた。
「では、これで。報酬はギルドの俺の口座に振り込んでおいてくれ。何かいい魔物が捕れたら持ってくる。受け入れ準備をよろしく」
魔物を入れる檻とか鎖とか何かあるだろう。
俺は騎士団長に声をかけると通夜の様に静かになってしまった騎士団員たちを残して練兵場を後にした。
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仁渓拝
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