第24話 結局こうなるか

               24


 最後の一人まで俺は残り全員の利き腕をへし折り続けた。


 俺のほうは相手によって左右の腕を使い分けることになったが自分が利き腕であろうとなかろうと結果にとっては関係なかった。握って倒して折るだけだ。


 騎士団御自慢の回復担当たちが最初の数人は骨の折れた相手を即座に回復魔法で全快させていたが途中から治療の手を緩めるようになった。俺が最後の一人まで折りきる勢いであったために魔力の温存を考えたのだ。とりあえずは応急手当てに留めて何日かかけて自分たちの魔力と相談しながら治療する方針に切り替えたらしい。


 何人折ったかこれ見よがしに俺が数えだしたせいで最後まで折りきるつもりだと思われたのだろう。もちろん、そのつもりだったが。


 結果的に副騎士団長の期待に応えて二周目に並んだ人間は誰もいなかった。『骨折り』パフォーマンス成功だ。


 最後の一人の手を演壇に叩きつけたと同時に演壇そのものが崩れ落ちたので腕相撲も続けられなくなった。


 やるというなら場所を変えて続けてもいいが対戦相手が出て来ないだろう。


 シンプルに領都騎士団より【支援魔法士】のほうが腕相撲は・・・・強いという事実が証明された。


 結局、ホブゴブリンレベルは俺との因縁があった一人だけだった。


 そう言えば、ホブゴブリンレベルの相棒とは対戦をしていない。俺が疲れた頃に相手をするような話をしていたが俺は疲れていないので相手はしないということなのだろう。


 顔も見ていない。


 流石の危機管理能力だった。そういう人間こそが世の中をうまく渡るのだろう。

残念ながら俺はそういう人間ではなかったので世の中ではなく世界を渡ってしまった。


 ハンドリーが俺のところにやってきて俺にずしりと重い巾着袋を手渡してくれた。


 やったぜ。


 とりあえず懐に仕舞う。


 俺は二階の窓を見上げて変わらず人影があるのを確認するとゆっくりと副騎士団長に向き直って声を張り上げた。


「実力試験の結果を報告します。ホブゴブリンレベルであった一人を除いて残りはゴブリンレベルばかりでした。領都騎士団には相当な対魔物能力の強化が必要です」


 俺の言葉は二階の窓まで届いているだろう。


「そのような報告は認められないな」


 副騎士団長は毅然と俺の言葉を否定した。


「腕相撲の優劣が探索者能力の優劣と実際に相関するのか検証の必要があるだろう」


 途端にグラウンドにいる騎士団員全員から剣呑な空気が噴き出した。


 じわりと包囲の輪が縮まった。


 俺とハンドリーを中心に概ね三十メートルぐらいの円の範囲に千人余りの騎士団員たちが密集した。


 もともとそういう予定だったのだろう。


 腕相撲は前座だ。それで話がつくようならばそれで良しだが、つかない場合は検証すると言い出すに違いないと俺は思っていた。


 腕相撲に勝った人間が実戦でも騎士団員に勝てるものか実際に戦って確かめる。そういうシナリオで俺とハンドリーを消し去って事故扱いにする。よくここまで茶番に付き合ってくれたものだとすら思う。骨が折れた人間多数なのに。


 俺は二階の窓を再び見上げた。


 もう興味はなくしたのか窓際に人の姿は無くなっていた。


「剣の扱いは俺じゃなくハンドリーの担当なんだが?」


「貴様が相手でなければ検証にならんだろう」


 確かにそのとおりだ。


「貴様が怪我をしてもすぐ治せるよう回復担当の魔力は残してある。全員と検証するまでどれほど怪我をしても治すので心配する必要はない」


 そういう予定で魔力の温存をしていたのだとは。


 要するに、どんなに俺が怪我をしても治してまた怪我をさせると言っているのだ。どんな拷問だ。


「そんな撲殺教団みたいな真似までしなくても良いだろう」


 ハンドリーが訴えた。


「撲殺教団?」と俺。


 聞きなれない言葉だ。


「最近流行りの田舎宗教だよ。罪人を痛めてやればやるほど罪人本人にとっての贖罪となり罪人が来世で幸せになれるという信仰だ。村を襲った盗賊などを痛めては癒し痛めては癒しで襲われた村人に恨みを晴らさせてくれると大人気だ」


 えげつない宗教もあったものだ。とはいえ、理不尽な目に遭った恨みを晴らさせてくれる神様と考えればありがたみもあるか。


「手合わせならば俺が代わりにっ」


「貴様は少し黙れ」


 ハンドリーの背後にいた騎士団員の男がハンドリーの後ろ頭を強く叩いた。腕相撲をした列のどこかにいた顔だ。


 ハンドリーはその場に崩れ落ちた。


 ハンドリーの胸は呼吸で上下しているので気絶をしているだけのようだった。元Bランク探索者を一撃で気絶させるのだから領都騎士団の対人戦能力は高いのだろう。領土拡大に野心を持ってしまう気持ちも、さもありなんだ。


「結局こうなるか、さて」


 俺は、こっそりとある魔法をかけた。


 副騎士団長が地面に倒れたハンドリーを見下ろし「誰か片付けろ」と騎士団員に声をかけた。


 誰も動かない。


「どうした?」


 疑問に思ったのか副騎士団長は自分の隣の男の顔を見た。


 男は石になっていた。


 肉体だけでなく鎧や衣服まで石になっている。


「な!」


 副騎士団長は他の団員に視線をやった。


 千人以上が全員ことごとく石になっていた。


 さっきこっそりと俺が『石化』の魔法をかけたためだ。


 全員俺たちの周囲に密集していたので漏れなく魔法の範囲内だ。


 この場にいる人間で石になっていないのは俺と副騎士団長とハンドリーの三人だけだ。


 但し、ハンドリーは気絶している。


 意思の疎通が可能なのは俺と副騎士団長の二人だけだった。


「馬鹿な! 貴様がやったのか!」


 俺は答えずに、にっこり笑った。手の内は明かさない。


 俺は副騎士団長に一歩近づいた。


「ひ」と副騎士団長は後退った。


 背後に立っていた石化した騎士団員にぶつかり騎士団員の石像が倒れた。


 ドミノ倒しの様に騎士団員は他の団員にぶつかり、次から次へと倒れて行った。


 幸い頑丈な石であるため割れたり欠けたりはなさそうだ。あとで石化が解かれたとしても元通りに戻れるだろう。


 副騎士団長は俺に背を向けると騎士団員が倒れてできた通路を慌てた様子で騎士団員を跳び越えながら逃げだした。


「そうはいかない」


 俺は副騎士団長にデバフを掛けた。


 副騎士団長の動きが目に見えて遅くなった。


 それでも必死にどこかに向かって逃げていく。


 騎士団長に今後の対応方針を確認にでも行くのだろうか?


 だったら、俺も同行したい。


 俺は副騎士団長を追いかけた。




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                                  仁渓拝

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