第16話 とても高圧的です

               16


 夕方、探索者ギルドに戻ると建物の外にヘレンが立っていて俺の帰りを待っていた。


 いくら久しぶりに担当する探索者が心配だとしてもさすがに過保護すぎるだろう。


 とはいえ、セクハラ親父としては嫌われてなくて良かったと思いたい。


 嫌われてないよな? 仕事上の義務感が恐ろしく強いだけだったりして。


「大収穫」


 俺は肩にかけていた棍をくるりと回すと背後にぶら下げていた一角兎アルミラージをヘレンの前に突き出した。


「毛皮に傷をつけてないから高く買ってくれないかな?」


「どうされたんです?」


「木の上から散々魔法をかけて何とか眠らせた。その後、首をきゅっとね」


 予定していたストーリーを披露する。


「なるほどそんな手が」


 ヘレンは驚いたという顔を見せた。


「これからも使える手だと思う」


 ドヤ。俺は断言した。


「そんなことよりギンさんに領主様の騎士団が訊ねてきています」


 けれども、あっさりとスルー。


「騎士団? ていうとハンドリーの勤め先か?」


「はい」


「どんな話?」


「要件まではちょっと。ギンという【支援魔法士】を出せの一点張りです。ハンドリーさんからの話ではなさそうですね。探索からまだ戻っていないと伝えたところ戻るまで待つそうです」


「今は中に?」


「はい」


 面倒臭そうだ。


「後回しだな。そんなことより一角兎アルミラージの解体を先に頼みたい。傷まない様に処理は早いほうがいいんだろ?」


「裏口から解体所に回りましょう」


 俺はヘレンの案内に従って建物の脇の細い路地を抜けて裏手に回った。


 探索者ギルドの裏側は壁面に大きなスライド式の扉がついていて開口部は縦横五メートルぐらいの大きさがあった。


 中は納品された魔物の解体所になっている。大きな魔物も丸ごと納品できるように大きな開口部になっていた。


 大物を仕留めた探索者は表玄関ではなく裏の道路から、直接、解体所へ持ち込むのだ。


 ヘレンが開口部から中に入っていく。


 足元は水で濡れていた。


 解体した魔物の血で汚れるため定期的に水魔法で洗浄をして血が混じった水は排水溝から下水道に流れて落ちるように処理がされている。


 とはいえ、血と臓物ぞうもつの臭いは避けられない。室内は悪環境だ。


「査定をお願いします」


 ヘレンは一人の男に声をかけた。四十代後半と見た。前世の俺よりは若い。


 魚市場のおじさんが身に着けていそうな体の前面を足元まで覆うエプロンをしている。足には膝上まである長靴を履いていた。どちらの素材もゴムではなくて何らかの防水性を持った生物の皮であるようだ。


 俺は男の前にあるテーブルに一角兎アルミラージの死体を載せた。


「傷なし火傷なしだ。高く買ってくれ」


 男は兎の全身を軽く確認した後、首周りを手で触れながら、


「魔法で凍死させてから解凍したものじゃないな? 生きたまま首を絞めている。罠か?」


「残念。木の上からかかるまで『眠り』をかけ続けた。その後ロープできゅっと」


 俺は練り上げていたストーリーを改めて説明した。


「『眠り』の魔法。『骨折り』とかいう【支援魔法士】はあんたか?」


「そう呼ばれているらしいな。誰かに勝手につけられた」


「ふむ」


 男は腕を組んで何か考える仕草をした。職人という言葉が似合う風貌だ。腕もごつりと太い。後でヘレンに確認したところ、探索者ギルドのサブマスターだった。サブマスター兼解体所長だ。


「毛皮が燃えていない点は高評価だ。反撃の隙を与えぬ様に普通は過剰な程の攻撃魔法で相手を焼き尽くそうとするからな。当然、毛皮など駄目になる」


 俺は相手の指摘に頷いた。


「だが、血抜きをせず内臓もそのままにしている点はマイナスだ。肉の質が落ちる」


「処理方法がわからん。初心者探索者向けの解体講習とかはないのか?」


 俺はヘレンに眼をやった。


「解体所の都合次第です」とヘレン。


「教えたら定期的に持ち込めるか?」


 サブマスは俺に訊いてきた。


「定期的はどうかな? 一角兎アルミラージに限らず自分の安全を確保しつつ魔力が尽きるまでにうまく『眠り』がかかるか次第だから。どれくらいの頻度が希望だ?」


 安全地帯から失敗ありきで何度も魔法をかけているという根本のストーリーは覆さない。


「最低でも週一回、できれば二回だな。この水準の一角兎アルミラージならば銀貨二枚だそう。下処理済みならば三枚出す」


 薬草採取と合わせれば一日当たりの稼ぎは銀貨四枚だ。三日に一日働くとしても銀貨一枚が手元に残る。逆に言えば銀貨一枚しか残らない。


 Fランク探索者としては破格の稼ぎかもしれないが、日雇い労働者の域を出ない。ブラック従業員の臭いがする。


 個人的には、あまり約束をしてしまって行動を制限されたくない。週二回も一角兎アルミラージを納品しないといけないのだとしたら長期の仕事は受けられなくなる。まるでギルドの下請け人生だ。やりたいときにやりたいことだけをやる暮らしが今世の目標だ。あまりうまみが感じられない。


「それだと拘束が厳しいな。特別な色は付けなくていいから獲れたら持ってくるのでその時の適正価格で買ってくれ」


「仕方ないな」


「だとしても下処理は学びたい。納品される側もそのほうが質はよくなるのだろ」


「確かにな。これからこいつを捌くところを見ていくか?」


「そうこなくちゃ」


「ギンさん、騎士団がお待ちです」


 ヘレンに釘を刺された。


 そうだった。


「ハンドリーからの話じゃなさそうんだよな?」


「恐らく。『オーガキング』とは系統が違いそうな方たちでした」


「もっとお上品ってこと?」


「ええ。とても高飛車で高圧的です」


 ヘレンが辛辣だ。ますます面倒臭い。


「仕方ないからさっさと済ますか。ヘレンは先にこちらから入って戻ってて。俺は一度外に出てから表に回ってギルドに入る」




◆◆◆お願い◆◆◆


 本作品は「カクヨムコンテスト10」に参加しています。


 12月13日現在、総合週間ランキング170位。異世界冒険週間ランキング38位でした。


 このような小説が好きだ。 


 おっさん頑張れ。


 続きを早く書け。


 そう思ってくださいましたら、★評価とフォローをお願いします。


 ★評価は、下記のリンク先を下方にスライドさせた場所から行えます。


 https://kakuyomu.jp/works/16818093089457549757



 なお「カクヨムコン10」につきましては


「クビになった万年Fランク探索者。愛剣が『-3』呪剣でした。折れた途端無双です。」


 https://kakuyomu.jp/works/16817330657780970916


 でも参加しております。


 よろしかったらそちらも読んでいただけるとありがたいです。



 よろしくお願いします。


                                  仁渓拝

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る