第40話 ハロルドの裏切りの真相
「ハロルド小隊長が清廉潔白で正義の心を持ち続けなければいけないと自分の心にいつも言い聞かせているのは、本当は自分がそんな人間じゃないと知っていたからなのね。
誰だって死人は思うのよ。自分は被害者だったのか、それとも断罪されただけの罪人だったのか。
ハロルド隊長は後者よ。リリエルと同じだわ。人を平気で殺せる人。
特に可愛い子や自分より美しい人を見ると中身も可愛くて美しいのかしらと肉と骨を裂いて内臓を取り上げて温度まで確かめてみないと気が済まない。
ハロルド隊長は今あたしの体を見ながら、やわらかい肌にメスを入れて内臓を取り出して温度まで抱きしめたいと願っている。
乳房も切り取ってしまいたいのよ。自分の体にくっつけてみたいのね。
メイベルも解体したくてたまらないと思っている。
どうすればそうすることができるのか必死に考えて、敵の捕虜としてメイベルとあたしを捕まえようと企んでいるわ。
黄の国でも緑の国でもいい。黒の国の情報を渡せば捕虜として捕まえた黒の国の人間は自分の好きなように扱える。
だからありもしないゲリラライブの開催と偽って森の近くでライブを開催させた。
森の中に逃げ込んだあたしたちはハロルド隊長が指示したとおりに動いている敵兵に囲まれて、捕虜になるしか道はなかった。
だけど、この話を覚えていたヒッポとハスラーはあたしたちを助けるために敵兵に立ち向かい戦死する。
メイベルは捕虜になりたくない一心で逃げ回り、怪奇に取り込まれて、裏切り者の手で殺されるわ。
裏切り者の存在に気付いたハロルド隊長はあたしだけは自分の手で殺そうと、血走る目で銃剣を振り下ろしたけれど、部下の暴走に気が付いたリディエンハルト総団長がハロルド隊長をあたしの目の前で殺したわ」
それは隊員たちが初めて聞いた予言だった。
他の隊員たちとは違い、ハロルドにはこれから起こる未来の話を聞かせたのだ。
やがてノエは担架に乗せられて近くの病院へと運ばれた。
あのとき、話を聞いた隊員は寝言に決まっていると笑い合って、されど二度とその話題を出すことはなかった。
リリエルは自分が本物のノエだと確信していた。今もこの時でもアイドルのノエに恋をしていたからだ。
ノエのすべてが欲しくてたまらなかった。この話がノエの耳に入ればノエはリターンチャンスという合法的な立場でリリエルを殺すことができる。
自分を殺した犯人に復讐をすることは合法。それがリターンチャンスだ。
リリエルは自分が殺される前にノエを殺す計画を立てた。黄の国に自分の能力を売り込んだ。自分の能力を使えば、あの正体不明の英雄級インビジブルを演じることができると自分の能力を買ってもらえるように接触を試みた。
リリエルの能力は透明化だ。透明になっている間、体内から出る音も消える。
ノエの超感覚をもってしても、戦場の中で心音が消えればリリエルは死んだと思い込むだろう。
さらに空を飛ぶ船も透明化させることもできる。駆動音に気付かれず奇襲をかけることも可能だった。
ラスクール飛行場で突如黄の国の旅団の船が現れたのはそういうからくりだった。
そしてどんな武器を持っていようが透明化してしまえば相手は攻撃されるまで武器の効果に気付かない。
それどころか、見えないためリリエルの能力だと誤認するケースがほとんどだった。
黄の国にとって悪い話ではない。ノエを重要視している黒の国の態度を見ていれば、ノエは捕虜として十分価値ある存在だった。
ノエの部隊に奇襲をかける。さらに英雄級インビジブルを黄の国に引き込んだと黒の国に思い込ませて敵の動きをけん制することもできると考えた黄の国はリリエルを雇い入れた。
しかし、黄の国から予想外の情報がもたらされる。ハロルドが裏切った。
黒の国が今回中立国を落そうとしている情報を黄の国にも緑の国にも流したのだ。
こうなれば緑の国もノエを捕虜として欲しがる。ハロルドは緑の国でのゲリラライブ開催を取り付けた。
一見、緑の国に加担しているかのような態度だが、ハロルドはリリエルの行動も見抜いているはずだ。
隊長格には隊員の能力を詳細に知らせてある。作戦を立案した段階では気付いていなかったとしても、現場でリリエルの裏切りに気付いてしまう。
それでも、黄の国とてやすやすと緑の国に黒の国の最重要人物と思われるノエを捕虜として取られるわけにはいかない。
奇襲作戦は今更止められなかった。表向きは黄の国が仕掛けた奇襲を退けるための黄の国と緑の国による攻防戦。
水面下では黄の国と緑の国によるノエ争奪戦。
だが、そのさらに暗部ではリリエルとハロルドによるノエの命を刈り取るための争奪戦が繰り広げられた。
しかし、結末は、あの日ノエが予言した通り、裏切り者リリエルの存在に気付いたハロルドが死してなおノエの命を奪おうと銃剣を向けたが、その行動と二度目の悪魔の姿に気付いた総団長リディエンハルトの手によってハロルドは殺された。
ハロルドはノエの予言を聞いたから狂ったのか、それとも狂った姿が真実だったのか、今となってはハロルドの真意も闇の中に消えた。
そこまで語り終えたリリエルは両手に炎を纏い、歪んだ表情で狂ったように笑い出した。
「ひひゃはははは!! ハロルドはバカなんだよ!! あいつは予言で殺されると言われてただろ!! 勝ち目のねぇ勝負に手を出すから消されるんだ!! オレの結末は予言させねぇ!!」
リリエルがその場でジャンプした。空中で両手を下に向ける。直後、炎の弾を高速連射。
リディエンハルトはすかさずその場から回避。炎は建物に燃え移り火柱を上げ始めた。
「逃がしはしねぇぜ!!」
リディエンハルトも稲妻化して空中へリリエルを追おうとしたが、向こうの方が判断が早かった。
空中を蹴ってリリエルは地面に着地する。そして今度は地面を蹴りステージ上をジグザグと猛スピードで走り、さらにリディエンハルトの手前で跳躍。気が付けば後ろからナイフの切っ先が伸ばされる。
横にずれて避けたが切っ先は腕をかすめて血が流れる。
さらにリリエルはナイフを持っていない左手でリディエンハルトの腹に目掛けて炎の弾を高速連射。
爆炎と煙に包まれながらリディエンハルトの体は背中からステージの床を割ってレンガ造りの地面にめり込んだ。
「くそがっ、意趣返しのつもりか!!」
以前うさぎの着ぐるみをノエの反転の能力で燃やして殺したことを覚えていたのだろう。
だが、まだリディエンハルトは稲妻化出来ないでいた。バク転の要領で地上に着地すると、リリエルが先ほどまで立っていた場所へ目掛けて砕けた地面のレンガを投げつけた。しかし、レンガは障害物に当たることなく後ろで散らばる。
「っくく、おれの姿を見つけられないようじゃ勝ち目は無いさ」
今のところその通りだ。稲妻化には制限時間がある。確実にリリエルが居るとわかる場所にしか移動できないし、大振りの攻撃も出来ない。
剣での一撃はリディエンハルトにとって最も殺傷力が高いが、一振りのモーションが大きすぎる。空振りした時の隙が大きいということだ。
仕方なく剣を左手に持ち替え、腰のホルスターからハンドガンを取り出した。
リディエンハルトのことを剣しか使わない剣士だと思っていたのだろう。
リリエルは目を見開いて驚いていた。
「なんのつもりか知らねぇが、銃の腕前はそれほどでもないんだろう!!」
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