第30話 怪奇屋敷の正体
【超重要なお知らせ】
このお話から読んでしまうと旧エピソードとの関わりがなく、意味不明化と思います!
近況ノートで詳しい事情を書いておりますので、新エピソードを順番通りに読んでからお進みください<m(__)m>
☆☆☆
「どういうことですか……?」
メイベルの質問にリディエンハルトは見てきたかのように朗々と語った。
「たぶんな、戦場で追い詰められた女子たちは願ったというか、当然のように現実逃避したことだろう。
なんせお化けを見ただけで気絶する女子二名を見ていればわかる。戦場での死の恐怖は、よっぽど気を失いたくなるほどに怖いんだなと。
そんな弱い心で戦場に取り残された女子二名は何を思ったか。
暖かい我が家に帰りたい。みんなと過ごした日常に帰りたい。そう考えるのが普通だろ。
んで、ここは屋敷だ。つまり家だ。そして女子たちの望むみんなも揃っている。
俺たちはルヴィの不幸感染で入り込んだ邪魔ものだけどな。
つっても、屋敷を作り出す力もルヴィの不幸感染が力を貸したんだから、全くの無関係というわけじゃない。
とはいえ、怪奇はそいつが生きているか死んでいるのか、人間か化け物かなどお構いなしさ。見栄えさえよければいい。いってしまえばそう見えればいい。
なにせ生まれつつあるそいつはまだ現実に出ていけるほどの力がない。
やたらと人の恐怖心を引き出すことは得意みたいだが、実態がないだろ。
だから、じじいの話じゃねぇけど、実際に存在するために自分の噂話を広めてもらった。
言霊の力で実態を得ようとして、そしてそれは成功した。
メイベルの容姿、姿かたち、どんな女の子なのか黄の国の兵士の間で一気に伝播された情報。
黄の国の兵士の数は90万人。これだけの人間がメイベルという人間について、存在しているものとして話し合う」
メイベルはからからと笑って反論する。
「何を言っているんですかぁ。私はちゃんと存在して」
だが、リディエンハルトは既に確信していた。女子トイレの中でおびただしい量の血の海を見た時から。
「お前だけは運が良かっただろ。屋敷に戻されて。ノエとルヴィは不幸にもお前の姿を見て気絶したが、お前だけは運が良かった。捕虜にもならず、殺されず、無条件で帰ってこられたんだから。最初からこの屋敷には存在していなかったメイベルに成り代わって」
これには興味深い感じでディーウェザーが質問してきた。
「どういうこと? この女は確かに最初存在していたはずだけど」
「女子トイレで殺されたんだ。遺体は戦場に飛ばされたのか、行方知れず。だが今は女子トイレの個室に戻ってきているかもな。メイベルを殺した犯人はわからねぇが、怪奇はその殺人事件を利用したんだ」
そもそもこの屋敷にはノエを殺そうと企むうさぎの着ぐるみを着た殺人鬼も紛れ込んでいる。
殺人事件が発生したとしても何らおかしなことはなかった。
メイベルの方を見ると、依然として笑みを浮かべたまま。
「バレちゃったかぁ……」
その瞬間、メイベルの体は闇に覆われ、無数の目玉と手足の生えた化け物へと変貌した。
「時間がねぇ! ルヴィ! ディーウェザー! グーニー! 一気に叩き込むぞ!!」
「了解です!!」
「へいへい」
「ガオン!!」
それぞれに、剣、ハルバード、機関銃、持ち前の牙と武器を構えて一斉に実体を得た怪奇に向かって全力の一撃を叩き込んだ。
ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン……!
呪詛の声とも怨念の怨嗟ともわからないような濁った音が響き渡り、屋敷は音を立てて崩れ落ちた。
☆☆☆
光が戻り、目が覚めるとそこはデュオルギスと初めて合流した戦場の跡地だった。
見渡せばデュオルギス、ニア、クローマー中将、ルヴィ、ノエ、ディーウェザー、グーニーの姿がある。
そして、少し離れた場所に腹を切り裂かれて絶命したメイベルの姿があった。
ノエは意識を取り戻しており、メイベルの無残な姿を見てむせび泣いている。
こそっとリディエンハルトのそばに来たルヴィはこっちこっちと袖を引っ張ってリディエンハルトをノエから離れた場所へ連れて行った。
「どうした?」
「あの、メイベルさんを殺した殺人鬼って、あのうさぎの着ぐるみですよね?」
「まぁそうだろうな。デュオルギスにもじじいにも殺す理由とメリットがなさそうだ」
顎に手を添えて考え込むルヴィは声を落としてリディエンハルトに告げた。
「偽メイベルさんが女子トイレに現れた時、ディーウェザー副団長様とグーニー准将様もリビングに戻されていましたよね。つまり、あのとき、リビングには屋敷の中に入り込んだ存在するものも、存在しないはずのものも全員揃っていたんですよ」
そこまで聞けばリディエンハルトにもルヴィの言いたいことがわかる。
「ああ、うさぎの正体は第三十一偵察死人小隊の隊員のうちの誰か。より正確に言えば、ヒッポ、ハスラー、リリエル、この三人のうち一人は生きている人間であり、かつ、メイベルを殺した犯人だ」
青ざめたルヴィは泣きじゃくるノエを見て自分まで涙ぐんでいる。
「言わないでやってくれるか。ノエには知られたくない。ちゃんと俺が見つけ出して始末するから」
「総団長様ぁ、つらくなったらルヴィを呼んでください。ルヴィは肉付きが良くありませんが、くびれたウエストには自信があるのです」
「あのな、襲いに来るんじゃねぇぞ? ルヴィのことはノエを守り抜いたらちゃんと考えるから、いい子で待っているんだぞ」
じーっと期待の眼差しでリディエンハルトを見つめるルヴィは顔を赤らめて小さく頷いた。
一つため息を吐き出すとリディエンハルトはルヴィの頭をぽんぽんと軽く叩いてやった。
そして、ノエのところへ二人で戻っていく。
リディエンハルトはしゃがんでノエの頭を撫でてやると、極力静かな声で提案した。
「メイベルを眠らせてやろう。こんなところで野ざらしじゃかわいそうだろ」
「ぐすっひっく、……はい」
ノエの許可も得たので、穴を掘って、というか、グーニーが素晴らしい働きで穴を掘り、メイベルを寝かせてやるとやわらかな土をかぶせて冥福を祈った。
「総団長……ヒッポは、ハスラーは、リリエルは……? どこにもいないんです……」
なぜノエにばかりこの世界は何度も地獄を見せるのか。リディエンハルトとしても、やりきれない気持ちでいた。
「……あいつらは最初から存在しないはずのものだった。ラスクール飛行場近くの森で、殺されていたんだろう」
白くなるほど握られたノエのこぶしは震えていた。
「なら、……ハロルド小隊長は……?」
ノエの前で逃げることなど許されない。
「俺が殺したよ」
ノエは膝から崩れ落ち、両手で顔を覆う。
「うううう、うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああん!!!!」
きっと、これだけ素直に受け止めて、泣くということは小隊の隊員たちの死にはノエにも心当たりがあるんだろう。
「あ、あ、あの、ノエさん、ノエさん、泣かないでください! ルヴィはずっとお傍にいます!」
ルヴィがノエに寄り添って慰めてくれるのが唯一の救いだ。
本当に、ルヴィと出逢えていてよかった。
☆☆☆
ここまでお付き合いくださりありがとうございます!!
加筆修正分はこれで終了となります(*´ω`)
ここから先はノエとデュオルギスを中心とした物語のラストをお楽しみください!
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