第23話 お使いクエスト

 やがて小さな町にたどり着きました。しかし、町の入り口に着くなり、トラックに背を預けていたスーツ姿の若い女性がルヴィたちに声をかけてきたのです。


「すみません! リディエンハルト様はいらっしゃいますか?」


「誰だお前?」


 訝しむ目つきで総団長様が女性を見ましたが、女性の方は総団長様の肩章(エポレツト)を見て顔をほころばせています。


「よかったぁ。旅団の制服を見ればわかると言われて二十キロも車を走らせたんですよ。私は通信局の職員です。リディエンハルト様宛に電報を預かっております」


 ぴきっと音が聞こえてくるほど青筋を浮かばせた総団長様は緑の髪の女性から電報を受け取ると内容を確認して恨み言を呟いたのでした。


 横目で確認したところ、『発、参謀本部並びにイルマール空挺参謀総長。宛、リディエンハルト総団長。エントール港にて第七艦隊機動部隊が包囲戦にて完全孤立。友軍の到着まで援軍に従じるべし。尚、一刻を争う。単騎で飛べ』と書かれていました。


「豚の撒き餌が希望かイルマール。既に任務中だというのに千二百キロ先まで羽を伸ばせとは笑わせてくれる」


 目が笑っていません。「こんな制服捨てときゃよかった!!」と言い放つ総団長様は苛立ったように制服の上着を脱ぎ捨てます。そして地面に制服を投げました。


 ノエさんがおしとやかに拾い上げて砂埃を払っていましたが、総団長様は相当ご立腹の様子。


「とはいえ、行かねぇというわけにもいかねぇからな。第七艦隊といえば黒の国の主要部隊だ。インビジブルの目的がノエだけではなく、今回の作戦に関与する目的もあるなら、必ずインビジブルも姿を現す」


 敵にとって好機となる袋叩きは見過ごせないと総団長はため息を漏らしています。


「ところで、ルヴィはインビジブルについて何か知らないか?」


 ああ、お役に立ちたい! お役に立ちたいのにこの体たらく!


「もうぢわげありゅましぇん!! ルヴィはぐしゅっルヴィはいじゅもパンドラボックスの中で!」


「ああ泣くな! 悪かった!! 聞いた俺が悪かったんだ!! 泣かないでくれ!!」


 ごしごしと総団長様の袖で涙を拭いてもらえてルヴィは幸福でございます。


「ルヴィとノエはディーウェザーのところに帰ってろ」


 仕方のないことだと思いましたが、驚いたことにノエさんが口を挟みます。


「待ってください。お菓子の調達くらいあたしでもできます。それに、おやつを買わないことには副団長を当てにできないでしょう」


 総団長様はため息を吐きながらもわずかに逡巡していました。


「仕方ねぇな。ただし、ここも安全とは言い切れない。インビジブルの目的がノエ一人という可能性も捨てきれない。だからグーニーから絶対に降りるなよ。それと出来るだけ早めにディーウェザーと合流してくれ」


 敬礼するノエはにこやかな笑みを浮かべた。


「ご配慮ありがとうございます! 行こうルヴィちゃん」


「いやダメだ。ルヴィは俺が連れて行く」


 ノエさんと二人で首を傾げるのは何度目でしょう。


「思い出してくれ。ルヴィのに俺とディーウェザーがいない状況でノエが感染したら目も当てられねぇ」


「そうでした!!」


 今ようやくルヴィも気が付きました。


「出来るだけ早めに副団長と合流します!」


 ノエさんは敬礼してグーニー准将と楽しそうに町の中へ進んでいったのでした。


 総団長はノエ隊員の姿が見えなくなったことを確認すると通信局の女性に向き直りました。


「悪いがこれを送りつけてきたイルマール空挺参謀総長に電報を頼めるか」


「かしこまりました。どのような内容で送りましょうか?」


 笑顔で頷いた職員の女性はポケットからメモ帳とペンを取り出して総団長の言葉を書き込んでいきます。


「発、リディエンハルト総団長、宛、イルマール空挺参謀総長。見返りは貴殿の命と等しく重い。第一独立空挺死人旅団第三十一偵察死人小隊、彼らに緑の国でのゲリラライブ開催を命じたか。書面にて否か応で答えよ。これだけ送ってくれればいい。頼むぞ」


「かしこまりました!」


 総団長様には何やら思惑があるように感じましたが、未だ正式に配属されたわけではない、捕虜の身で黒の国の内情を聞くことは憚れます。


「ところでルヴィ、異能力はハルバードの創造と重力操作で合っているよな?」


「はい! 説明していないのにルヴィを感じてくれて嬉しいです!」


「いや言い方。重力操作があるならイケるよな。音速の向こうへ」


「……え?」


 事情も分からず抱えられて、総団長様は空高く浮かび上がり、落雷の如き爆音と衝撃波を置き去りにして飛び立ったのでした。

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