三章 不幸

第18話 冒頭に戻る

 そして、話は冒頭に戻る。ニアの話を聞き終わった途端に再び屋敷に呑み込まれたリディエンハルトの傍らには居なかったはずのルヴィがおり、事情を聴く前に怪奇に追われて、今ようやくリビングという安全地帯に全員が集まったという状況だ。


「ヒッポ、ハスラー、リリエル、メイベル!! みんな生きていたのね!!」


 ノエが涙を浮かべて駆けて行ったのは、先ほどノエの無事を喜んでいた男女だ。


「むにゃ、っは! ルヴィはまたをおかけしましたか!?」


 ルヴィがようやく目を覚ました。


「斬新な迷惑だが、別にルヴィが悪いわけじゃない。だが、そろそろ詳しい怪奇の説明をしてもらいたいんだが、話せるか?」


 ルヴィはソファーに寝かされており、上半身を起こすと、屋敷に呑まれた結構な数の人々を見て目に涙をためると頭を下げた。


「申し訳ありません!! ルヴィはどんな場所、どんな状況、時間も場合もルヴィのに巻き込む体質なんです!!」


 それを聞いてディーウェザーだけが一人笑っていた。


「死人、予言、言霊、不幸感染、もうお化け屋敷が開けそうじゃん」


「既にお化け屋敷の中へ招待されていてよく笑えるな」


 笑えない爺様も一人憤慨していた。


「総団長! 速やかにこの状況を打開したまえ!! 我々には時間がないのだ!!」


「んなことわかってるっつーの! だがなぁ、怪奇に物理攻撃は効かねぇぞ! 誰か浄化の炎とか出せねぇのか? それか、退魔の札とか、聖水とか」


「それ悪魔に有効なやつでしょ。怪奇じゃ効かないんじゃない?」


 ディーウェザーにまともに指摘されると倍落ち込む。


「あの、そちらの方々はノエさんのお仲間ですか?」


「あ、そうなの! ルヴィちゃんにも紹介するね! このクマさんみたいに大きな人がヒッポ」


「おっちゃんって呼んでくれよ!」


 二メートルはありそうな巨体で腹も出ている。ビールをよく飲みそうな男だった。


「こっちの糸目で常にカードを持っているギャンブル依存症がハスラーよ」


「もっとマシな紹介してくれ!」


 確かに片手には武器にもならなそうなトランプのカードを携えた男がいる。


「イケメンだけど女好きでモテないハスキーボイスのリリエルよ」


「ノエ、おれだっていきなりルヴィちゃん襲ったりしねぇから普通に紹介しろって」


 容姿が整っているというか、この中じゃ一番年齢もノエたちに近しい細身の男だ。


「最後にあたしの可愛い後輩、メイベルよ」


「新人偵察兵メイベルです! よろしくお願いします!」


 栗毛を肩のところでふわふわとさせた愛らしい少女だった。


 ルヴィもソファーから立ち上がって丁寧に挨拶を返す。


「捕虜のルヴィです! 黄の国では第八死人旅団の団長を務めていました! ハルバードでの近接戦闘を得意としています! なので大抵違う死因で敵は死にますけど……」


 最後の言葉が恐ろしかったのか、ノエのところの隊員はみんな青ざめて黙ってしまった。


「あ、あの、こんなときにあれですけど、ノ、ノエさん! 握手してもらえませんか! 星屑ミント大好きです!! えっと、ダンスも完コピできます!!」


「え! 嬉しい!! 今度一緒に踊ろうよ!」


 ぶんぶんとルヴィの手を掴んで握手しながらノエは嬉しそうに飛び跳ねている。


 ルヴィも同じく嬉しそうに飛び跳ねている。美少女が並び立つとこんなにも華やかなものなのか。


「デュオルギスさんは奥さんにするならノエとルヴィどっちがいい?」


「ば、ばか。彼女たちとオレでは年が離れすぎているよっ」


 珍しく慌てているデュオルギスだが、七個か八個年上程度なら許容範囲ではないのか。


「ぼくならルヴィだな。あれって純血の髪だよね。まるで金の糸みたいで綺麗だな」


 じっとニアの様子を見ていたデュオルギスは何かに気付いたようで微笑みを浮かべた。


「ああ、そうだな。ルヴィの髪色は少しアイシャに似ている」


「ち、違うよ! パパに似てるとかじゃなくて! ルヴィは犬みたいだから!」


 きっとアイシャは犬のように人懐っこくて優しい男だったんだろう。


「んでさー、星屑ミントのドッペルダンスとファザコンの恋愛観を聞いて、この屋敷の対策浮かんだの?」


 ディーウェザーがいつの間にか背後霊のように背中に張り付いていた。


「とりあえず、気は進まねぇがこの安全地帯から出て外を探索してみるしかねぇだろうな」


 そういうと、なぜか勢い込んでノエが駆けてきた。


「総団長! あたしも行きます!!」


 なぜ、と聞こうとしたら、他の隊員がノエの肩を掴んで止めた。


「ダメだ! ノエはおっちゃんたちとここにいろ! 気絶したらどうする!!」


「そうですよ!! ノエ先輩は怖いの苦手じゃないですか!! 気を失うかも!!」


「気絶したら総団長に迷惑かけるだろ!」


「意識を失うリスクを冒すより、ここでおれたちと作戦会議してようぜ!」


 なぜ、と聞くまでもないな。ノエのところの隊員が揃ってノエの気絶を心配する理由など一つしかない。


 実際にノエが気絶した場面に居合わせたからだ。


 リディエンハルトはハロルド小隊長にノエの意識消失時は速やかに報告するように厳命していた。


 しかし、今までリディエンハルトはノエが意識を喪失した報告を受けていない。


 ハロルド小隊長がなぜ意図的に報告を怠ったのか。その理由はおそらく、ノエが喋ってしまった隊員の過去か、あるいは予言に原因があるだろう。


 だが、ここで隊員たちの口を無理矢理割る必要はない。


「探索メンバーは俺とディーウェザー、それとノエ、グーニーペアとルヴィだ」


「えええええええ! 総団長! ノエ先輩はその、戦力外ですよ!」


 メイベルが必死に食い下がったが、グーニーが「ガオンッ!」と一声鳴いて牙を見せたら、ビビって五歩ほど下がった。


「大丈夫よメイベル。グーニーがいればあたしに怖いものなんてないわ」


「そ、そうみたいですね。じゃ、じゃあ、あの、ホントに気を付けてくださいね……」


 ノエはひらりとスカートを翻してグーニーの上にまたがる。


 ルヴィは脱兎の勢いで逃げ出そうとしてディーウェザーに襟首をつかまれていた。


「嫌ですぅううううう!! どうせルヴィは皆さんにをおかけしますからあああ!!」


「いや、それでいいんだ。この意味不明な怪奇に対抗するにはでも起きてもらわないと対処できねぇ」


 それともう一つ、リディエンハルトは確信していた。ルヴィが同行している限り、何をどうあがこうが、ノエは気を失うと。


「じゃ、行ってくる。居残り組はデュオルギスに指揮権を任せる。何か有効な対策案を話し合っていてくれ」


「了解いたしました」


 デュオルギスの敬礼に見送られながら、リディエンハルトたちはリビングの扉から廊下へ出た。




☆☆☆

三章はほぼ新エピソードとなります!


ここから読み直すだけでも新感覚かもしれません( *´艸`)


ルヴィ編ともいえるホラー回ですので、少しでも背筋がゾゾゾと感じてくださった方はハートや星や作品へのフォローで応援していただけると嬉しいです!(^^)!

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