第14話 ノエとグーニーの作戦会議に謎の菓子男乱入

 よくよく話を聞いてみれば、うさぎの着ぐるみに襲われたとき赤い結晶を投げて防御壁を張って助けてくれたのは総団長だったという。


 しかし、ノエの目に映ったのはハロルド小隊長を殺した姿。そして、ノエを殺す場面だ。

 極度の緊張状態が自分に幻を見せたのだとしたら、あれは自分が選んだ先の未来だ。


 桶に張ったお湯でタオルを絞ると体の汚れを拭いて落としていく。


 お湯を運んできてくれたのは、この船の女性隊員だった。総団長の命令でノエの体を綺麗にしてやるように言われたらしい。

 ついでというか、たぶんこちらが本命だが体に傷が無いか確かめろと言われたので来たと告げられた。


 最初の提案では船には浴室があるのでお風呂に入りましょう、というものだった。

 だが、聞けばこの船は次の任務のために飛んでいるとのこと。


 なんとしても次の任務に同行したいノエは入浴を丁重に断り、こうして体を拭くことになった。怪我の具合はどうしても確かめたいというので、裸の状態は見せてある。ノエが渋ったために彼女が怒られてしまってはかわいそうだ。


 しかし、パンティーに足の指先を通しながらノエは考える。


(……あたしのリターンチャンスは総団長を殺すこと。優しくされてもハロルド小隊長の無念を忘れてはいけない……!)


 本来のリターンチャンスとは違うが、ノエはハロルド小隊長のために復讐を誓っていた。


 ブラに腕を通し、背中でホックを留めていると足元にいるグーニーが声をかけてきた。


『ノエ、作戦はどうする?』


 大隊の皆さんは気が付いていなかったが、グーニーはあと少しで人語を喋り出す魔獣なのだ。

 実際、今もこうしてノエにはグーニーが普通に喋っているように聞こえる。


「そうだなぁ、やっぱりまずは武器の調達よね。まさか麻酔銃を渡されるとは思わなかったし。しかも弾丸は一発だけ。安全に配慮されてるところがちょっと嬉しくてムカつくのよ」


 グーニーには人間の複雑な感情は理解できないようであくびをしている。


 優しくされたあの瞬間、ノエが八つ当たりと分かりながらも総団長に殺意を向けたことを彼自身は気付いていないだろう。


 総団長の強さはノエも一瞬だが目の当たりにした。そしてこの気遣いだ。新品のシャツに袖を通しながら思わずにはいられない。それだけの優しさと強さがあるのならば、どうして皆を助けてくれなかったのか。どうしてハロルド小隊長を殺さなければならなかったのか。


 何かを隠されている。その秘密も暴いてやりたい。脅しではなく本気の殺意で向かわなければきっと秘密の一つも手に入れられないとわかっていた。


「総団長を殺せるような武器。きっとただのライフルじゃ届かない」


 スカートのチャックを上げた。ヒールのある靴にも慣れた。アイドル用に改造されてある旅団のきらびやかなコートも、もう重たいとは感じない。ノエはすっと顔を上げた。


「負けないよ。アイドルだもん。どんな道でも笑顔は絶やさない」


『うむ、気概は、良い。あいどるは知らんが……』


 魔獣にアイドルという概念があったらそちらの方が面白い。

 くすりと笑みを浮かべるとノエは医務室の扉を開ける。瞬間、ぎょっとした。


「っひあ!?」

「……遅かったね」


 心臓に手を当てるとバクバクと激しく鼓動を打つ。まさか扉の前でディーウェザーがしゃがみこんでいるとは思わなかった。


(やばい……! 聞かれた!?)


 内心慌てるノエをよそにディーウェザーはチョコレートの銀紙を破りながらのんびりと話し始めた。


「リディエンハルトが屋敷で使った赤い結晶は、死人の血から作った通称『マテリアル』だ」


「……え?」


 なんの話だろうか。


「旅団は正式に軍籍しているわけじゃないけど、軍の命令で動いているから国際軍事法に則って戦う。どこの世界でも……基本的には」


 まるで例外もありえそうな含みのある言い方だった。


(どうしよう、グーニーとの会話聞かれていたのかな……)


 確認したいが直球で聞くのは阿呆極まりない。どうしようか太ももをこすり合わせてもじもじとしていると、チョコレートをむしゃむしゃ食べていたディーウェザーの視線がスカートへ向かった。


「パンツ濡れたの?」


「何をど直球に聞いてるんですか!? 濡れてませんよ!!」


 あ、そう、とディーウェザーの返答はあまりにも軽い。ノエは羞恥で顔が真っ赤だった。


「国際軍事法では『マテリアル』の所持及び使用を団長格にしか認めていない。危険すぎるからね」


「えっと、それは次の任務の話ですか?」


 話の意図が見えないノエは首を傾げるしかなかった。


「次の任務? いや、僕は興味ないな。レジスタンス一個師団相当とか負ける方が難しい」


 要するにこの副団長も強いのだろう。先ほどの話では副団長の方が強さではナンバー1という話だった。ノエにとっては腹の立つ自慢話だ。ナンバー1と2が揃って一個小隊も助けてくれなかったのか。


 ノエは満面の笑みを浮かべてディーウェザーに言葉を返す。


「貴重なお話をありがとうございます。ですが、あたしもそちらには興味がありませんので」


「無論、セックスに興味があるというなら僕もそちらの話題に移行することに異論はない」


「あたしの興味の方向を曲解しないで!!」


 もう泣きそうだった。早くこの男のそばから離れたい。


「聞いていないならそれでいいんです……お食事中お邪魔しました……」


「能力を当てるだけでいい。一度目は捕縛、外部的には防御壁、二度目はよくて炎上、最悪、高濃度魔力爆発だ」


「……え?」


 気が付けば、ディーウェザーはもう用は済んだとばかりにチョコレートをかじりながら歩き出していた。


「っま、待って!」


 しかし、ディーウェザーは待たない。だが、顔だけ振り返りながら言葉は返してきた。


「武器が欲しいんでしょ」


「……っ!」


 立ち尽くすノエを置いて、結局ディーウェザーはそのまますたすたと廊下を曲がっていった。


(聞いてたんじゃない! なんなのよあの男は……!)


 仲間を売るというのか。正式な配属が決まったわけでもない一般兵のために。


『ノエ、どうする? ディーウェザーの話は本当だ。リディエンハルトが赤い結晶を持っているのを見たことがある』


 ぐっと拳を握り、唇を噛み締めた。ノエも馬鹿ではない。いくらアイドルとはいえいきなり現れたノエに加担するような男が副団長という地位にいるとは思っていない。


 無駄だと思われているのだ。どれだけ危険な武器を手に入れても、格下のノエでは復讐は叶わないと確信しているのだろう。


(そうだとしても……!)


「……奪うわ、絶対に」


 奪われたままでは終われない。それに、時間が無い。ノエは自分の不安定な能力の中に予知能力があるのではないかと感じ始めていた。

 それくらいハッキリと、特にライブ終わりでは幻を見ることが多かった。


 自分が殺される前にハロルド小隊長の仇だけは討ちたい。元凶がたとえうさぎの着ぐるみだとしても、実際に手を下したのは総団長なのだ。ノエにとって譲れないリターンチャンスだった。





☆☆☆


いつも応援ありがとうございます!!

次回は久しぶりなバトルです( *´艸`)

そこを過ぎるといよいよホラー感が増しますので、楽しみにお待ちください!(^^)!



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