第24話 希に悲しむ姿は似合わない

「拓也くんは、アミラじゃないかな!!」


 一瞬、希が何を言っているのか分からなかった。やがて、希が俺をアミラだと言っていると気づく。まさか、唯が俺のことをアミラだと言ってしまったのだろうか。いや、唯が言うわけがない。俺は唾を飲み込んだ。ま、まさか、本当に希は俺の正体に気づいてしまったのか!? それなら、俺がアミラだと言ってしまいたい。だが、俺がこれからやろうとしている事は、ひとつ間違えば悪に加担することにもなってしまう。血塗られた人工心臓を移植されたことを知ったら、きっと希は喜ばないだろう。


 希は天使のように心が澄んでいる存在だ。これから俺がすることを知らない方がいい。そうだ!! もし、この移植が法的に許されても……、きっと倫理的には許されることではないだろう。そうであるなら、希に俺がアミラだと気づかれない方がいい。これは俺のエゴかも知れないが、希にはこれからもずっと、綺麗な心でいて欲しい。そのためには、俺がやろうとしていることも、そして俺がアミラであることも知る必要はない。


 アミラはずっと輝く存在として、希の心の中にずっと生きていて欲しい。そうだ!!


「アミラが俺だと……、へえ、希ちゃん。俺をそんな風に思ってくれてたんだ。そんなこと言ってたら、俺アミラの振りしてナンパしちゃうよ」


 そうだ、怪しまれるような反応はできる限り、心の中に隠して平静を装うのだ。


「もしかして、俺とつきあいたいとか思った。それなら、嬉しいな」


 希はアミラが好きなだけで、俺が好きなわけではない。普段から男たちに付きまとわれている希には、こう言われることが嫌いなんだ。


「ごめんね、そうじゃないの」


 そうだ、それでいい。助かったら俺のことなど忘れて、和人とつきあえばいいんだ。和人はいいやつだ。希にとっては弟のような存在かもしれないが、誰よりも希のことを愛している。


「やっぱり、違ったか。おっかしいな……、わたしの勘、結構当たるんだよ」


 希は少し残念そうな声で呟くように言った。胸がキリキリと痛みが走る。何やっているんだよ。チャンスじゃねえか。躊躇うことなんてなんだ。お前が希を助けて、奪い去ってしまえばいいんだ。そのために必死になって助けてるんじゃないか。なぜ、そんないい人ぶるんだ。まるで俺の心がふたつに分かれてぶつかり合っているようだ。俺はごくりと唾を飲み込んだ。言うな、絶対言ってはいけない。平静を装うのだ。希には俺がアミラだと知られては絶対にダメだ。俺はなけなしの勇気を振り絞る。なんともお粗末な話だ。一言言うだけなのにこんなに辛いんだな。


「その人はネットの有名人だよね。ただの大学生がそんな有名人になれるわけがない。そもそも俺たち大学一回生じゃないか。いつ、そんなゲームする暇があるんだよ」


 俺は希の言ったことを嘲笑うように笑った。そうだ、希の言っていることはおかしい。大学受験が終わってわずか半年で、全プレイヤーの最高位に辿り着くなんて出来るはずがないんだ!! そうだ、そんな奴はこの世を探してもどこにもいない。


「確かに拓也の言うとおりだね。やっぱり、アミラって私たちよりもずっと年齢が上なのかな?」


「うん、俺が聞いた話だと二十代半ばと聞いたけども」


 よくもまあ、次から次へと嘘がでてくるものだ。瞳に手をやると濡れているのに気づく。声もださないで泣いているのだ。馬鹿だよ。希のヒーローになれるかもしれないのに、気づかれないように声も出さずに泣いてるんだぜ。俺は唇を強く噛んだ。でもさ、泣いてるの気づかれたら、演技がすべてばれてしまうよな。せっかく、ここまで誤魔化せたんだ。なら、最後までがんばるんだ。

 

「へえ、じゃあそんなにゲームしてたら仕事してないよね」


「そうなるかな」


「それはそれで大変そう」


「きっと家が金持ちなんだよ。だからゲーム三昧な生活をしてるんだよ」


 限られた時間で最大の効率を考え、誰も考えつかない方法で最短で最高レベルにまで達した。確かに、合格後ゲーム三昧な時期はあるにはあったが、誰よりもこのゲームを知り尽くしたから、こんな短い時間で、ここまで辿り着けた。普通のプレイヤーなら、たとえ一日中プレイし続けてもこのレベルには辿り着けない。


「そうだろうね。あーあ、そう考えたら、なんか夢がなくなっちゃったね」


 希の残念そうな声が聞こえた。


「お別れの言葉途中だったから、ちゃんと話したかったな。絶対、拓也がアミラだと思ってたのに」


 俺は声がでなかった。きっと希は自分の命が僅かなのを知り、最後にアミラと一緒に話しをたかったのだ。それを俺が潰してしまった。


「残念だったな。まあ、和人に慰めてもらえよ」


 俺は絶対に希を助けるよ。最後の言葉なんて、俺にはいらない!!


「ひっどーい。和人は弟みたいなもんなだよ。わたしがいないと本当にだめで、そういう意味では放っておけないんだけどね」


 少し希は落ち着いたようで、少しホッとした。


 希には悲しむ姿は似合わない。 

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ネトゲで出会った天使様は陽キャの姫だった。大学では口も聞いたことがないのに、ネトゲ内で結婚してしまったから、陽キャにバレて大騒ぎに!! 楽園 @rakuen3

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