第23話 希からの電話!?

 俺はどうすればいいのか!?


 山賀と別れて大学まで向かう間、俺はずっとそのことを考えていた。希が助かるかもしれない。ただ、その条件がカインラッドでの山賀に対する勝利だ。システムに自由に介入することができる山賀に勝つ事は簡単なことではない。


 そしてこの人工心臓は恐らく人体実験無しには成し得ないものだ。日本の法律では完全にアウトだろう。


 そして、本当にこの人工心臓で希が助かるのかと言う保証だ。これが実のところない。


「浮かない顔をしてますね。どうしましたか!?」


 俺は大学のカフェで待ち合わせをしていた唯に会ってすぐ、そう言われた。唯は人の心の機微を良く理解している。俺の嘘なんてすぐにバレるだろう。


 俺は唯に山賀から聞いた条件を話した。人工心臓は血塗られた技術だ。


「なるほど、そう言うことでしたか……」


 唯は暫く考えた後、そう言った。唯は何を考えているのだろうか。沈黙の時間が流れた。


「やっぱり受けない方が……」


「拓也は勝てる自信がありますか?」


 唯は俺の心を見透かすようにそう言った。希が助かる可能性がこれしかないでならば、行くしかないのか。


「その人工心臓に関して、過去何が行われたのか、それは僕が調べます。拓也はとりあえずカインラッドで山賀に勝ってください」


「この人工心臓は血塗られたものかもしれないのに……」


「それを拓也が気にする事ではありません。もし、山賀が罪を犯しているのであれば、罪を償わないとならない。だからと言って人工心臓技術は無くなるものではない。とりあえず拓也は希を助けるために、勝ってください。お願いします!」


 そうか……、確かに唯の言う通りだ。山賀が過去に何をしていたか、は俺には関係ない。今の俺には人工心臓が必要なのだ。


「分かったよ……」


 俺は唯の言葉に救われたような気がした。先のことなど考えてはいけない。まずは山賀に勝たなければ、そもそも希は助からないのだ。


 唯と別れた俺はスマホを取り出し、山賀に連絡した。


「もしもし、拓也くんだね」


 俺の電話を待っていたのだろう。電話をかけるとワンコールで山賀が出た。


「良い話をもらえるのかな」


「はい、俺はどんな条件でも受けて立ちます!!」


 負けることなど許せない。相手はシステムを駆使して叩き潰してくるだろう。それでも負ける気はしなかった。このカインラッドはもはや俺の庭みたいなものだ。勝つための方法はいくらでもある。しかも、レベルの上限がなくなるのだ。それなら、三ヶ月後に山賀に勝てることなど難しい事ではない。


「いい返事だ。では、わたしは君と会った場所で待つとしよう。君がくれば、いついかなる時でもわたしは戦おう」


 恐らく俺が約束の地に入れば山賀に連絡が行くのだろう。寝込みを襲うのも不可能だ。電話を終えて、俺はカインラッドにアクセスした。


「ただいまから三ヶ月の間、最果ての地を解放いたします。また、レベル上限を緩和します!!」


「なんだよ、それ。それ誰が得するんだよ!! アミラくらいだろ!!」


「あいつ今より強くするのか。やめて欲しいよな」


 確かに今、カインラッドで60レベルに達しているのは俺だけだ。恐らく最果ての地は想像を絶するモンスターが配置されてるのだろう。


 カインラッドから抜けてSNSを見たが、荒れてるようだった。解放は明日からか。俺は基本シングルプレイしかしていないから問題はないが、これに乗じてパーティを組んで最果ての地を攻略しようとする上級プレイヤーも出てくるかもしれない。


 気がつけばスマホが鳴っていた。えっ、希からのライン通話だ。俺は慌ててスマホを手に取った。


「えへへへ、暇だから電話しちゃった」


 和人でも唯でもなく、なぜ俺に電話してきたのか!?


「大丈夫なの!? 病院で電話したらダメと思ってた」


「大丈夫だよ! わたし、個室なんだからね」


「お見舞いに行こうか!?」


 俺はドキドキしながら、そう答えたが返ってきた返事は期待とは違うものだった。


「ごめんね。今は話すだけでもしんどくてね。あまり、この姿見られたくないから……」


 希をどうしても助けたい。たとえそれが許されざる行為だとしてもだ。俺は喉元まで助けてやるからな、という言葉が出そうになって、慌てて口を押さえた。ダメだ、助けられる保証なんて全く無いんだ。期待させるわけにはいかない。


「今日、電話したのはね」


 そうだ。和人や唯と違って、希が俺に電話する理由がない。確かにステーキハウスで少し話はした。だが、それだけだ。それだけで希が俺に電話してくる理由にはならない。


「ちょっと聞きたいことがあってね」


 そうか。きっと俺が聞きやすいから聞いてきたのだろう。和人か唯との恋の相談だ。どちらの話が出ても、優しく答えてあげられるように俺は気を引き締めた。強く拳を握る。そうだ、俺は希が生きてさえいてくれればいい。


 長い沈黙があった。その時間はきっと1分程度だっただろうけど、俺には永遠とも思われる沈黙だった。


「拓也くん……ネットの人じゃないよね!?」


「えっ、……」


 希は何を言おうとしてるんだ。言っている意味がよく分からない。


「ごめん、分からなかったかな」


 俺の沈黙が理解できてないと思ったのだろう。希はもう一度俺に聞いてきた。


「拓也くん、アミラ……じゃないよね!?」

 

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