第3話 contact

Rayと出会ってから数週間が経った。

元来の自分の性格によりRayには連絡が出来ないままでいた。

___ やっと自分から話したいと思った人が出来たのに。

結局いつものように、変わらない日々を過ごしているだけだ・・・。

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国民の家での過ごし方と言えば、もっぱらインターネットで政府関連のニュースを見てばかり。これがほとんどの国民生活スタイルだ。

外に出るにしても「HGP」や「EP」を装着しないといけない私達にとっては、外出はかなり面倒くさいものとなっていた。そんな事から普段は家でボーっとして過ごしながらニュースを見る事が世の中の大半の人々の行動となっていた。

人間が行う仕事のほとんども家のパソコンで行えるし、写真で見た事のある「通勤電車のラッシュ」や「スクランブル交差点の人混み」は、もはや現代においては有り得ない光景であり、寧ろその写真で見る過去の時代はある意味ジョークにさえ思える。車もオートメーション化され、全ての車が一度道路に出れば、走行している車両が全て「国家交通通信網」に連動して自動で止まったり動いたりと、目的地まで安全に私達を届けてくれる。全ての交通機関では「国家交通通信網」からのシグナルにより、信号機に組み込まれている受信器を通って全ての車両に電波を送り自動制御される仕組みとなっているからだ。もはや追突事故なんて起こる事もない。等間隔の距離を保ち、走り続けては(止まる)の繰り返し。交通事故死は「0」だが、道路上で人が事故で死ぬ時と言えば大体、人と人がぶつかって転んで死ぬ事の方が多いのだ。


外での労働と言っても、現代では外に出て働く人の数は本当に多くはない。私のように、コンビニで働いていても昔のコンビニで働く人達と大きく違うのは、コンビニから出たゴミを処理する為だけに雇われているという事。労働というよりは、廃棄物処理係だ。今時、体を使っての労働をする人の数は多くはない。私のような知的能力の劣るであろうと思われている人間が任される仕事となっている。ではいったい何故?政府関連のニュースを人々は見るのか・・・。それは・・・。

政府が何か新しい発信を国民に対してする時には、必ず「政府チャンネル」を通して行うからだ。番組タイトルだけは一見可愛らしく思えるが、発信している事と言えばあまり可愛くはない。現在の日本の世界における経済的・軍事的ポジション、GDP、総人口など、いわゆるお国事情的な「普通」の発信もあるが、国民の気にしている部分はそこではない。正直そんな話は我々にとってはどうでもいい事になってきている。世界の中での日本の事、というよりは、国内での政府に対する国民感情がこれらの新しい発表により悪い方へと高まってきているからだ。

勿論、その中には「粛清」に関するニュースも含まれている。

「粛清」・・・最も国民が興味のあるところ。

何故って?その「粛清」にあたる政府の条項も、日を追う毎に更新されているからだ。「粛清」に関しては政府の「National Citizen Control Bureau」(国家国民取締対策局)が全てを行っている。通称「NCCB」。

それはまさに、全ての国民を「国」という器の中からはみ出さない様にする為の存在。極端な話、昨日までは大丈夫だった事が明日には「粛清」対象になったりもする。ただ、死ぬ事が怖いのか?と問われれば、私はそうでもない、と答えるかもしれない。ほとんどの国民が「生」に対して執着しているのかどうかもわからない。

少なくとも私は後ろ向きだ・・・。

何の為にご飯を食べ、何のために働き、何の為に生きているのか。多分生まれた時から、「生」から「死」へ向かうだけの一本道の上を歩いて生活をしているだけ。その中の余白ページを無理やり何かで埋めようとしているに過ぎないと思っているからだ。そして政府は国民に対し、その一本道の白線から我々がはみ出していないかどうかを逐一チェックする。コントロール出来なそうな部品に対しては、政府の「特別罰則」を通知する事で統制を図ろうとしているのだ。

その政府の国民に対する特別罰則通知はこれら三つの段階に分かれている。

1「警告」、2「最終勧告」、3「排除」の順になっている。

1つ目の「警告」は、今あなたが行っている行動をやめなさい、というお知らせのようなもので、ある意味あなたは政府からの監視対象になっている、というのを気付かせる為の最初の通告。監視対象になると半年はその監視対象から除外される事はない。

2つ目の「最終勧告」は、これ以上何らかの政府に反する行為は、世の中の秩序を乱すという事で最後のお知らせですよ、という意味でイエローカード状態だ。これを受けるともう後がほとんどない。その後数年は政府の監視対象のままだ。

そして3つ目の「排除」は、単純に言えば「死」という事を意味する。そう、マイクロチップを使い「極刑」を施行されるのだ。これらの通知は、順を追って国民に通知していく場合と、いきなり極刑―「排除」となる事もある。

このような国の変化により、自由を奪われた国民は悲観的になり、将来に対しての希望を持てなくなっているのが現状だ。少なくとも今の時代は統制されている状況に前向き思考になれない若者が少なくはなく、毎年「自死」を選択する人間も増加している傾向にある。ただ、その「自死」すらも自由には行えないのが今日の日本なのだ。ある特定の届け出により政府に認められた者だけが許可を得る事によって「自死」を行えるからだ。だからこそ、他人との関りを積極的にしていこうと考える者もほとんどいなくなっている。人と繋がってもその先の人生がどうなるかもわからないからだ。他人と関わらない・・・これに尽きるのだ。

昔は皆が持っていたであろう夢も今ではほとんどが「AI」によって奪われた。政府からすると「AI」こそが優れていると思われており、人間は間違いを犯す愚かな生き物にさえなっている。


 ― 政府にとっては人間こそが役に立たない生き物なのだ ー


そこで賄えない仕事が私たちに回ってくるだけ。雑用以下の雑用。時代は進んだが人間の価値は逆行して落ちていくだけだった。ごく一部の「AI」の能力を高める為の技術を提供出来る者達だけが、政府にとっては大切な「人間」なのである。

「AI」の誕生に驚き、歓喜溢れていた世の中は、その「AI」の無限の能力により自分達の能力の無さを痛感させられ、どんどんと国と企業は「人間」から仕事を奪い「AI」へとその役割を置き換えていったのだ。

人々が昔観ていた映画そのものになってきているようなもの。世の中は想像から現実へと変わっていったのだ。ただ、人の持つ「感情」だけはやはり「AI」がどんなに優れていても、人間には勝てない所なのかもしれないが、その「感情」でさえも人々は失いつつあり、むしろ無感情になっている人達の方がすでに多くなっている。ただでさえも息苦しいこの世の中を、「NCCB」がさらに人の心を圧迫し、呼吸すら出来ないくらいに人々の活力を奪っていく。そして残るのは燃えカスのようになった人々の山だけ。

______________


突然ニュースを見ていると私の「IDブレス」にシグナルが・・・。

「Ray」からだった。

私は「S・A・A」(シグナル・アクセプタンス)をタッチして「Ray」からのメッセージを骨伝導により脳に伝達する。


「SORA君どうしてるかな?もし良かったらちょっとだけ会えないかな。」


シンプルなメッセージだった。すぐさま私は「いつでも大丈夫、連絡を待ってるよ。」と返信して、彼からの連絡を待つ事にした。

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2024年12月3日 07:00
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Sky in the raindrop 伊賀ヒロシ @takocher

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