現実逃避者のジャイアントキリング

第二関節の吉田

第1話 ドラゴンと鬼ごっこ

 レールが敷かれてない道には列車が通れないように、人生のレールを敷かれなかった僕はどこにも行けなかった。


「進路調査書を提出するまで居残りだからな!」


 担任の川谷先生の逆鱗に触れてしまい、求人票や大学のパンフレットだらけの部屋に閉じ込められた。ふと外を眺めるとサッカー部が熱心に練習している。


「お、先客はっけーん」


 振り返ると、校則違反の金髪に整った顔立ちをした男――月島響平、僕の数少ない友人が来た。


「俺ちゃんと書いたんだけど突っぱねられてさー」

「なんて書いたの?」

「第一志望は冒険家で、あと二つは空欄」

「間違いなく先生が正しいよ」


 さすがは問題児、僕の予想を軽く高跳びしてくる。

そこからは駄弁を交えつつ資料を漁ることにした。

どれも興味惹くものはなく段々と飽きてくる。


「そーいえば俺、昨日ドラゴン見たんだよ」

「明日、病院空いてるかなー」

「いやマジだって、屋上でぬか漬けしてたら偶然見たんだよ」

「学校で何してんの!?」

「あそこの山の頂上に降りていってさ……」


 ドラゴンよりもぬか漬けの方が気になって話が入ってこない。なんで屋上で漬けようと思ったんだ?

思考がまとまらない中、響平がとある山に指をさす。


「お、ドラゴンはっけーん」

「え」


 桜坂病院の近くにある山の頂上に、ぐるぐると迂回する黒い生物がいた。呆気にとられていると響平は急いで散らかったパンフレットを片付ける。


「一緒にあの山に行くぞ!」

「進路調査書は?」

「ぬか漬けを献上すれば許してもらえるはずだ!」

「許されないからね、普通に考えて」


 こうして僕たちは部屋を出てドラゴンのいる山の頂上へ向かった。途中で川谷先生に見つかったけど気にも留めず走り去った。まるで車を追い抜く路面列車のように、僕たちには目的へと前進した。


 山頂に辿り着いたはいいものの、草や木ばかりでドラゴンらしい生物は見当たらなかった。これから探そうにも周りが暗くてよく見えない。


「やっぱり見間違えかな?」

「くっそ、俺のぬか漬けがー!」

「さすがに貰わないでしょ」


 ふと町を眺めると綺麗にライトアップされており、星を見下ろしたような美しさだった。しばらく見惚れていると後ろから足音が聞こえてくる。


「まさかドラゴン?」

「いや、人の足音だと思う」


 振り返ると聖華学園の制服を着こなしている黒髪の女性が居た。歳はそれほど変わらないはずなのにモデル並みの存在感があり、思わず圧倒される。


「まさかあんた達もドラゴンを探しに?」

「おう、けど居ないみたいだ」

「あらそう……」


 その女性は酷く落胆していた。

 聖華学園は国内有数のお嬢様高校で有名だ。そんな学校の生徒が何故、危険を冒してまでここに来たのか疑問が頭によぎる。


「君はどうしてドラゴンを探しに?」

「夢子でいいわ、私は現実から目を背けたくて追いかけてきた。あんた達は?」

「僕は日暮凛、この人の付き添い」

「俺はぬか漬けの月島響平だ。面白そうだから追いかけてきた」

「二つ名がとんでもなくダサいわね」


 SNSで他に目撃者が居ないか確認すると、二十件も桜坂病院の山からドラゴンが出たというツイートがされていた。どうやら見間違えじゃなかったらしい。


「ドラゴン見つけたとしてどうするの?」

「「背中に乗ってみたい!!」」


 もしかしたら夢子さんも響平側の人間なのかもしれない。


「今なんか音しなかった?」

「え、マジ?」

「何か来るわ! もしかして」


その瞬間、獣の雄叫びが大気を震わした。


 黒曜石のような鱗。

 見たものは震え上がる牙と爪。

 巨大な両翼。


「逃げなきゃ!」

「カッチョ良すぎでしょ!」

「ばか、早く逃げなさい!」


 こうして竜VS僕たちの鬼ごっこが始まった。




 



 






 



















 




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