Track.22 雨の音に隠した言葉

Voice.43 このまま……ずっと一緒に居たいよ

 温泉でちょっとした事件があった後、木暮はすっかり不機嫌になってしまった。

 いや、たしかに聞き耳をたててたけど、偶然聞こえてきただけで、オレ達は何もしてないんだけど……。

 そして、風呂から上がって着替えて外に出ると、漫画コーナーが目にとまった。

 広めのスペースに、何列か本棚が置かれている。

 せっかくだし何か読むか。

 少年漫画コーナーに行こうとすると、風呂から上がったルームウェア姿の笹山が居るのを見つけた。

 笹山は、本棚の近くにあるソファーに座って漫画を読んでいる。


「笹山」


 オレが声をかけると、笹山は読んでいる漫画を閉じてオレを見上げた。


「あ、瀬尾くん」

「めずらしいな。笹山が漫画読むなんて」

「実は最近ちょっとハマっちゃって……これ、『若葉わかばくんに聞きたいこと』っていう少女漫画なんだけど」


 笹山はそう言って、読んでいる漫画を見せる。

 持っている漫画はコミックスの2巻で、『若葉くんに聞きたいこと』2 遠宮とおみやえまと書かれている。

 表紙のイラストは、水彩画タッチの淡い色使いのイラストで、かわいいヒロインとイケメンのヒーローが描かれていた。


「オレ、少女漫画はあんまり読まないんだよな」

「そうなの?」

「姉ちゃんが持ってるから何作かタイトル知ってはいるけど、キラキラした感じがちょっと苦手でさ」

「そっか。遠宮先生の漫画何作か読んだけどおもしろいよ。今連載してる吸血鬼きゅうけつきドミトリーとか」

「それは学園ものっぽいのに、吸血鬼ものも描いてるんだな」

「うん。このあいだ、たまたま本屋さん寄って若葉くんを買って読んでみたらおもしろくて、今は他の作品も買って読んでるところ」

「へー」


 その後オレもしばらく漫画を読んでから、ホテルの自分の部屋に戻ろうとする。

 すると、さっきから篠原の姿が見あたらないことに気がついた。

 もしかして、自分の部屋に居るのか?

 その時。

 ホテルの外で雷の音が鳴り響いた。

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陽キャアイドルの幼なじみの秘密を陰キャオタクのオレだけが知っている件について 水沢紗奈 @kurobastafes

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