最終章 白井陽向と赤羽圭一郎
第49話 野球少年と選択 Ⅰ
あれから数日経過し、二学期に突入した。
その日の休み時間の内に諸々の書類の提出などを済ませた俺は、放課後文芸部の部室の前に立っていた。
あれから白井先輩とは連絡を取っていない。
取るべきだったのかもしれないが、それにかもしれないなんて事を付け加えている通り、取るべきではないと思っている自分がいた。
だから多分既に中に居る白井先輩とコミュニケーションを取るのは、あの日以来という事になる。
「……」
軽く深呼吸をする。
流石にいつものように軽い感じには入れない。流石に少し億劫になる。
……まだ俺と白井先輩の間には、あの重苦しい空気が纏わりついたままなんだ。
それでも後回しにして逃げていい事じゃない。
……姉貴の頼みでもあるし。
そう、姉貴に頼まれ事をしている。
初めて文芸部の部室に訪れたあの日とは違い、今度はストレートに白井先輩の様子を見てきてほしいと。
そう頼まれた。
話によると姉貴の電話に白井先輩が出ないらしい。
だから心配なのだそうだ。
まあ電話に何故出ないのかはなんとなく分かっているけど。
俺に頼んだ時の姉貴はいつもの様子を作っていたけれど、多分姉貴は姉貴で自分がインストールさせた催眠アプリが本物である事を、俺にとっては未だによくわからない人のままの柴崎さんとの関わりの中で把握している。
諸々の詳しい事情は分からないし、考える余裕も無いけれど、それはきっと間違いじゃない。
家での会話の節々からもそう伝わってきたし……それこそ詳しい事情は分からないが、柴崎さんの言う姉貴から電話がかかってくるかもしれないというのは、つまりそういう事なのだろう。
そして直接顔を合わせていなくても、白井先輩も同じよう姉貴が色々と掴んでいる事を察していて電話に出ないのだと思う。
……先輩からすれば何を言われるか分かったものでは無いだろうから。
とはいえ実際攻めるような事は言わないだろうけど。
言うわけがない。
間違いなく自分が全部の元凶な事を重く受け止めていそうだったし……何より行動力の塊の姉貴が白井先輩の自宅に話を聞きに行くわけでもなく、俺を通じて様子を見るという回りくどいやり方を使ったんだ。
先輩と初めて会った日とは違って……今回のは合わせる顔が無いと姉貴は思っているんだと思う。
俺に対しても……先輩に対しても。
負い目を感じているんだと思う。
そんな姉貴に……今の白井先輩がどんな感じかを伝えるという頼み事を俺は聞いてきた。
……とはいえ、それが無くても俺は今日此処に来ていたわけだけれど。
来なくちゃいけなかった。
先輩とできれば直接会って、話さなければならない事があった。
「…………行くか」
軽く深呼吸をして。
小さくそう呟いて、覚悟を決め。
文芸部の部室を開く。
そしてそこには想定通り先輩がいた。
「……け、圭一郎君」
いつもは俺が来たらパッと明るい表情を浮かべてくれていたけれど。
今日は……沈んだ表情で。
何かする訳でもなく椅子に座って居た先輩が居た。
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