第41話 陰キャ先輩と夢の終わり Ⅱ
あの後、圭一郎と共に足を運んだのは近くのカラオケボックスだ。
これから話すかもしれない事も。
これから行うかもしれない行動も、あまり人前で長々とやれるような話じゃないから。
落ち着いて二人になれる場所という事で此処を選んだ。
「……話す事話したら適当に歌いましょう。良かったら口直しに何か頼んだりしてゆっくりと」
「……」
そう言う圭一郎は、この先の話が終わった後でそういう事ができると思っているのだろう。
……否、あまり余裕のない表情を見る限り、そうなったら良いという願望を表に出してるのかもしれない。
そして自分よりもずっと心の強い圭一郎ですらそんな様子なのだ。
彼よりきっと弱くて……加害者側の自分には、そんな風に逃げる事すらできない。
「……」
まともに返事を返す事も出来ない。
自分から話そうと、そう言ったのに。
話して進まなくてはいけないのに。
一歩前に進む事が怖くて仕方が無い。
そして黙り込んでいる自分に、圭一郎は言う。
「とりあえず先に甘い物でも食べましょう。やっぱり美味しい物を食べると多少は元気が出るでしょ」
言いながらフードメニューを開く圭一郎。
気を使ってくれている。
自分の意思決定が催眠アプリの所為で歪められていたかもしれないと。
自分が選んだと思ってきた事が選ばされてきたのだと、そんな不安が滲み出ているのに。
もしそうだとすれば、気を使う相手が加害者でしかないのに。
きっと彼より暗い表情を浮かべているであろう自分をなんとかしようとしてくれている。
……本当に、いい後輩なのだ。
かっこよくて、ノリも良くて、優しい。
文芸部には。
自分にはあまりにも勿体無い。
自分自身の事よりこちらを優先させるような選択は取らせちゃいけない。
大事な後輩だからこそ。
そう思えるような相手だからこそ。
……これ以上、甘えてはいけない。
此処でそれを続けたら、もうずっとそのままで動けなくなると思った。
だから、頑張って……頑張って勇気を振り絞る。
こんな自分に優しくしようとしてくれている、赤羽圭一郎という後輩との関係を、正しい物にしなければいけない。
それがどういう形に落ち着くのかが分からなくても。
……否、大体想像がついていても。
それでも。
それでも進む。
「……た、頼まなくて、いい。今は……いい」
「……先輩」
「は、はっきりと……させよう。こ、このアプリの正体を」
「……」
「う、ウチ達……二人の為に」
赤羽圭一郎の為に。
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