第28話 やべー奴とやべー奴 中

「僕が本物かどうかは個々の判断に委ねるとして、キミは間違いなく本物だったろう」


「私が本物かどうかは個々の判断に委ねるとして、アンタに言われたくないって言ってんの」


 自分が高校時代、一部というかそれなりの人間から文芸部のやべー奴と呼ばれていた事は知っているし、呼ばれるような事も山程してきた。

 だけどあくまで自分なりにラインを見極めてその範疇でやりたい放題やってきた訳で、こんな超えちゃいけないラインから走り幅跳びをしているような奴とは違う。

 そしてそんな奴からやべー奴呼ばわりされるのは流石に心外だ。


 こんな生徒複数人をマインドコントロールして操ってたような、本当に洒落にならないやべー奴からそう言われたら、まるで同格に引き上げられてしまうような気がするから。

 否、引きずり降ろされると言うべきかもしれない。


「まあお互い卒業した今、かつてどう呼ばれていたかなんて関係無いだろう」


「ほんとなんで卒業できたんだよお前。退学しろ退学」


「致命的に誰かを不幸にするような行動を取った覚えはないからね。僕は人の行動をコントロールするという事そのものを楽しんでいただけで、金銭を巻き上げた訳でもなければ体に傷を付けさせた訳でもない……まあ流石に停学にすらならなかったのはうまく事が運び過ぎだとは思ったけどね。自分の才能が恐ろしいよ」


(……やっぱマジでヤバイ奴だろコイツ)


 ……まあとにかく、あまり思い返して楽しい物ではない。

 だから極力あの一件には触れないように、話題を反らすように問いかける。


「で、そんないくらでも闇の仕事をやれそうな奴が、なんでこんな時給高くもねえファミレスでバイトしてんだよ」


「そりゃ人を不幸にしてお金を稼ぐのはあまりいい気分はしないだろう。というか稼がなくてもだ」


「どの口が言うんだよどの口が」


「スピ研の一件は正直不慮の事故だよ。いくつかの想定外の出来事がパズルのように嵌った結果。そういう意味では僕はキミが強制終了してくれた事に対して少し感謝してるんだ。当初部員とWINーWINの関係を築く筈が結果ああなった訳だからね」


「つまりあの時も今も悪い事をするつもりはないと」


「そのつもりだよ。この才能は将来的に良い方向に使うと決めてる」


「例えば?」


「僕はカウンセラーになろうと思っていてね」


「アンタがやると相談者変な方向に導いたりしそうなんだけど」


「大丈夫。同じ轍は踏まないさ。その為にも今は人心掌握研究会というオンラインコミュニティで日々研鑽を積んでるところでね」


「それほんと大丈夫な集まりなんでしょうね!?」


 柴崎含めて本当にやべー奴しかいない気がする。


「大丈夫。皆真っ当な意思で真っ当に腕を磨いてるよ。だからクリーンさ……僕らはね」


「僕らは?」


 そして柴崎の声音が少し重くなる。


「…………これはここだけの話。キミは高校を飛び出しよりワールドワイドに色々と首を突っ込んで行きそうだからね。頭の片隅に入れておいた方が良いかもしれない」


 そして聞き覚えのある単語を口にした。


「キミは催眠アプリという物を知っているかな?」

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