第27話 やべー奴とやべー奴 上

 文芸部員達がデラックスパフェと格闘している最中、ファミリーレストランのバックヤード。スタッフの休憩室にて、二人の関係者である赤羽美琴はテーブルに突っ伏して項垂れる。


(アイツら、滅茶苦茶イチャイチャしてたな)


 真面目に働いてる所を恥ずかしいから見られたくないという理由で来るなと言っているのに普通に来る上に、何を見せつけてきやがるという感じだ。


 高校三年間+大学生活二か月半の間彼氏が出来ていない自分としては、身近な人間同士でああいう空気を出された時のダメージがえぐい。

 男友達は山程いたし、なんなら過去形じゃなくいるのに何故だろうか。


 そしてそんな二人の様子を見せ付けられると、自然とこういう思考に落ち着く。


(ていうかやっぱアレか? 圭が野球辞めたのってこれか?)


 弟の入学初日、陽向の様子を探るために文芸部の部室へと向かわせた。

 それが結果的に運命的な出会いとなり……的な。


(圭と陽向がそういう……えぇ……)


 正直信じがたい話ではあるが、ようやく可能性のある着地点を見つけられた気がする。

 それこそ誰かに無意識に意思決定を歪められているみたいな、そういう非現実的に思えるような事よりは余程真っ当。


(……いや、どうだろ)


 それでもそれが野球を辞める事にまで繋がるだろうか。それはどうしても引っかかる。

 とはいえ恋の力というのは強い。

 彼氏居ない暦=年齢だから知らんけど。


 ……とにかく。

 心配こそしていたものの、結局何か出来ていた訳でもない現状、自分もそういう物だと受け入れる時期なのかもしれない。


 そもそも普通の高校生としては、何もおかしな選択はしていないのだから。



 だから弟と後輩というイレギュラーの事は一旦思考から外し、自分の問題に意識を向けようと思う。


 自分の問題。

 このバイトの話。


 弟に愚痴を言いはしたけど、それは精々迷惑な客が居るなどの話であり、このバイト先の人間関係などに不満を持っているわけではない。

 だが今日のシフトを確認する限り、此処に来て人間関係に不満ができてしまうかもしれない。


 これまで一度も一緒に入った事が無いスタッフで、柴崎彰という同年代の大学生の男が居るのだが、本日は彼と同じ時間帯にシフトが組まれている。


 ……柴崎彰。

 かなり印象の悪い男と同姓同名なのだ。

 そして同姓同名などそう居ないわけで、おそらく同一人物。


 その男と顔を合わせる事になる事実に軽くため息を付きつつ気を引き締めていると、休憩室に最近聞いていなかった、偏見だがいかにも裏切りそうな声音が通る。


「お疲れ様です……ってなんだ。まさかとは思ったけど、やっぱり文芸部のやべー奴じゃないか。久しぶり」


 現れたのは偏見だがいかにも人を裏切りそうな雰囲気の整った顔立ちの男。


「……本物のやべー奴にやべー奴呼ばわりされたくないんだけど」


 高校時代の同級生、柴崎彰。

 かつてスピリチュアル研究部の部長だった男。


 マジモンのやべー奴である。

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